優秀であるということ、時代の流れ
クラス初のDOHCヘッドを採用した180度クランクのパラレルツインエンジンを搭載し、ホンダ・ホークⅡ、ホークⅢとともに70年代後半の400ccクラスをけん引したスズキGS400。
長らく2スト専業メーカーとして歩んで来たスズキは、20数年ぶりに開発した4ストモデルにもかかわらず、軽快でバランスの取れた走りで大ヒットを呼んだことに自信を深め、すぐさま次期モデルの開発に着手。
燃焼室内で混合気が2つの渦を巻くように設計されたTSCC(ツイン・スワール・コンバスション・チャンバー)ヘッドを持つ、DOHC4バルブツインのGSX400Eを80年1月に発売する。
市場では79年にデビューしたDOHC4気筒のZ400FXが圧倒的なセールスを続けていたが、「車格やウェイトを含めたトータルバランスでは、400ccは2気筒がベスト」と判断しての投入だった。
事実、GSからさらなるショートストローク化が進められたエンジンは、Z400FXを上回る44PS/3・7kg-mのパワー&トルクを発生し、乾燥重量も18 kg軽い171kgを達成。
デビュー1年目の鈴鹿4時間耐久レースでは予選でポールポジションを獲得し、翌81年の鈴鹿4時間耐久レースでは1‐2‐3フィニッシュを飾るなど、サーキットでもポテンシャルの高さを実証して見せた。
しかし、80年6月にヤマハからXJ400が登場すると、中型クラスの主流は完全に4気筒モデルへとシフト。
性能とは別の次元で盛り上がるユーザーの4気筒ニーズを無視することができず、4バルブDOHC4気筒エンジンのGSX400Fに主役の座を譲ることになった。
その一方でGSX400Eも、19×16インチタイヤやプルバックハンドル、ステップドシート、ショートストロークリアショックなどでまとめたアメリカンタイプのGSX400Lに加え、19×17インチタイヤやアップハンドルを装備し、シンプルでクラシカルな雰囲気にまとめたトラディショナルバージョンのGSX400Tを追加ラインアップ。
ベースのGSX400Eも81年3月にマイナーチェンジが実施され、フロントブレーキのダブルディスク化やニューデザインのANDF、偏平率の高い前後タイヤの採用など、足まわりを中心に熟成が進められた。
前出の鈴鹿4時間耐久レースでのリザルトに加え、一時期ヨシムラがTTーF3レース用にこのエンジンのチューニングを手掛けるなど、性能面では高い評価を得たGSX400E。
大きなセールスに結びつかなかった要因のひとつが、後に「ザリガニ」などと呼ばれる個性的なデザインと色使いにあることは否めない事実だった。
そこで、GSX1100Sカタナの前にH・ムートがデザインを手がけた、GS650Gのデザインテイストを踏襲して外装を一新させた、その名もGSX400Eカタナにモデルチェンジ。
83年にはビキニカウルと新型キャストホイールを装着し、大胆なカラーグラフィックを配したバージョンも追加された。
優れた性能を持ちながら、80年代初頭から急激に進み始めた多気筒化、ハイパワー化の流れに翻弄されるように、短命に終わってしまった典型的なモデルと言っていいだろう。