そしてついに、その市販バージョン「テネレ700」が登場! いち早く実車に触れた三橋淳氏のインプレからは、その妥協のないオフロード性能が伝わってくる!
ラリーマシンの「原点」に立ち返ったシンプルな構成
「オフロード8割、オンロード2割」と開発陣が言ってのけるTENERE700(テネレ700)。「オンロードをないがしろにしたわけではないですが、オフロードツーリングでの楽しさを大事にしています」ということらしい。
2気筒のアドベンチャーというのは、平たく言えばオンオフツアラーモデルと言うことになるが、重たい2気筒エンジンをオフロードで利用するユーザーは1割程度とも言われ、結果、各社ともオンロード重視の巨大化したモンスターマシンが中心となっている。
しかし、国産アドベンチャーのルーツは80年代のパリダカマシンにあり、それはこのテネレ700も同じ。カウル付きの2気筒バイクは、実用度はどうあれ、ラリーマシンのイメージが強くついているし、そこに強い魅力を感じるファンがいるのも事実だ。
その「原点」に立ち返ってテネレ700はデザインされたと言ってもいい。一言で言うなら、シンプルなのだ。
テール周りはまるでラリーバイクのようにスッキリしている。キャリアどころか、グラブバーさえない。
シートも段付きではなく、オフロード車らしくフラットだ。ABSこそあるが、トラコンはないので、メーターもスイッチ類もシンプルですむ。
「本体は極力シンプルに。足りないものはオプションで」と言う割り切り方。トラコンは後からつけようとしても無理だが「エンジンの特性が良ければトラコンは不要」と言い切る開発陣の自信の表れでもある。
さて、乗り味は果たしてどうだろうか?
とことんオフツーリングを楽しみたい人にピッタリ
まずは開発陣が「2割」と言うオンロード走行から。21インチのフロントタイヤは通常は逃げていく印象があるので、最初は身構えたが、ワンテンポ遅れてではあるが、きちんと旋回する。
これが出来ると、オフ車の軽快感を利用して、クイックなターンが楽しめ、中速域のコーナーの連続など、オンロードバイクにはない切り返しの楽しさがある。
スクリーンは小型だが、整流効果はきちんとあって、頭がぶれることはない。が、無風というわけにはいかない。風は当たらなければ当たらないほど快適、とするツアラーの目線からすると、どうなのだろう?
しかし、ダートに入って納得した。このスクリーン。スタンディングポジションで全く邪魔にならないのだ。
加えて、ポジションそのものがスタンディングに合っている。逆に座った状態だとハンドルが遠く感じてしまい、オフではフロントに荷重を掛けにくいが、立てば全てが解決する。
さらに言えば、ラリーパッケージのハイシートなら前方にお尻を移動させやすくなって、これも解決する。
車体はとても軽い。車重が軽いのだから当然だが、実は、取り回し時には重さを感じていた。乗車時に気を緩めると、おっとっと、となることもある。
重心の高さでそう感じるのだが、ちょっとでも動いていれば重さは感じないし、タンク周りが細いので、威圧感が少なく、軽快感が際立つ。
エンジンは扱いやすく、フラットと言えばそれまでだが、常用域なら6000回転をキープするとキビキビ走る。3000回転ではトルクの細さを感じるが、アクセルを開ければ、遅れてではあるがついてくる。
このワンテンポ遅れて、というのが、初心者などには優しく感じられるはず。これが「トラコン不要」と言わしめるエンジン特性のポイントだ。
もっとも、僕の場合はリニアな反応が欲しいので、写真のようなアクションをするときは9000回転あたりを常用していた。
ただ、ここまでオフにこだわって作っているので、サスペンションだけがどうしても勿体なく感じてしまう。
オフロードツーリングをする上では十分だが、エンジンも車体も素晴らしいので、レーサー気質の僕はどうしても飛ばしてしまうのだが、そんな時に、大きなギャップには耐えられないのだ。
しかし、テネレはあくまでツーリングバイクであり、ラリーマシンではないのだから、それは当然かもしれない。仮にこれ以上サスストロークを伸ばしても、1m近いシート高になって、一部のライダーしか乗れなくなってしまう。
テネレ700は林道を楽しみたい人のためのバイクだ。
「オフロード8割」というのは、バイクの性能のことではなく、ツーリングにおける、ライダーの重要度の話。メインはあくまでも林道ツーリング。
舗装路の移動は、そのためのオードブル。そう思えるライダーのためのバイクなのだ。
文:三橋 淳