「人車一体」の喜びこそがSRが愛され続ける理由
SR400は排気量が異なる兄弟車のSR500と共に78年3月に登場。
オフロードモデルのXT500用をベースにショートストローク化した空冷OHC2バルブ単気筒エンジンは、軽快に回って高回転まで伸びる特性を持っていた。
しかし27馬力という最高出力値は味わいや扱いやすさよりもひたすら速さを求めていた当時の空気には合わず、商業的にヒットしたわけでもない。
それでもヤマハはSRを、改良を重ねながら作り続ける。
そして80年代中盤以降はサーキット専用車のように先鋭化したレーサーレプリカに興味を失ったライダーや、アメリカンとはひと味違ったリラックスライディングを求めるユーザーを徐々に取り込み、いつの間にかSR独自の世界を確立。
レプリカブームの終焉や販売台数全体の減少で国内二輪市場が逆風にさらされても、SRは安定した人気を保ち続けた。
09年には排ガス規制に対応するためキャブレターをFiに変更。
より緻密なFi制御やキャニスター(ガソリン蒸気の吸着装置)採用でユーロ4規制をクリアした現行型は18年に登場している。
Fi化後はキックのみの始動も苦にならないレベルまで向上。
発進時にスロットルのラフな操作でエンストする気配もなく、低回転トルクの太さと重めのクランクマスによって力強い発進加速を見せる。
7000回転以上まで軽く回るエンジンということもあって、単気筒らしい鼓動感を堪能できるのは3000回転程度まで。
2000回転台で早めにシフトアップすれば歯切れのいい排気音も楽しめる。
振動の許容範囲は100㎞/h時の約4500回転あたりまで。
最高速は140㎞/hを超えるが、そこにSRの味わいはなく、手足が痺れるだけだ。
シンプルな構成の鉄フレームに細い前後タイヤ、ソフトな減衰力セッティングの前後サスペンションを組み合わせた車体は全体の剛性を低めに設定。
これがライダーに積極的な操作を要求しない穏やかなハンドリングを生んでいる。
オートバイなりに寝かせればリアからスムーズに旋回し、バンク角を深く取らなくてタイトなコーナリングラインを描く。
ライダーが緊張感を持って対峙し、電子制御がアシストするという最新SSモデルとは全く違うスポーツマインド。
SR400が40年以上に渡って愛されているのは、人車一体となって駆け抜ける喜びが、いつの時代も変わらないからだ。
SPECIFICATION
全長x全幅×全高 2085x750x1100㎜
ホイールベース 1410㎜
シート高 790㎜
最低地上高 130㎜
車両重量 175㎏
エンジン形式 空冷4ストOHC2バルブ単気筒
総排気量 399㏄
ボア×ストローク 87x67.2㎜
圧縮比 8.5
最高出力 24PS/6500rpm
最大トルク 2.9㎏-m/3000rpm
燃料供給方式 FI
燃料タンク容量 12L
レイク角/トレール 27度40分/111㎜
変速機形式 5速リターン
ブレーキ形式 前・後 φ298㎜ディスク・ドラム
タイヤサイズ 前・後 90/100-18・110/90-18
RIDING POSITION 身長:176㎝ 体重:681㎏
高めのハンドル位置でリラックスした上半身に対し、ステップ位置は若干後退しているところがスポーツモデルらしい。
乗車時の沈み込み量が多い前後サス、790㎜の低シート高、スリムな車体で足着き性の良さにも定評あり。
THE ORIGIN OF “SR”
SRが登場したのはレーサーレプリカブームの前段階としてロードスポーツモデルの高性能化が急速に進み始めた時代。
レーサー譲りの最新メカに馬力競争という世界に迷い込んできたようなSRは前時代的なキワモノに見えたし、ベテランを自負する人がしたり顔でSRの魅力を語る姿にも嫌悪感を覚えた。
だがSRを何台も乗り継いだり、手を加えながら乗り続けるライダ一は着実に増えていった。
そして自分がベテランと呼ばれるようになるにつれ、SRファンの気持ちが判るようになった。
オートバイの原点に立ち返った構成のSRは、単なる移動の道具でも、身体能力を拡張する道具でもない。
少々大げさだが、人生を一緒に楽しむ仲間なのだ。
DETAILS
シートと同様に、飾り気のない、プレーンな形状のタンクだが、SRと一目で分かる。
不思議と眺めていても飽きのこないカタチをしている。
排ガス対策が施された現行モデルでは、このようなキャニスターを装備。
活性炭を使ってブローバイガスを回収するシステムだ。
プレーンな形状のロングシートは、ポジションの自由度が高く、肉厚なので座り心地も上々。
意外とスリムで足つき性も良好。
メーターはアナログ2眼で、電子制御とは無縁。
ホワイトの文字盤はクラシカルだが視認性にも優れる。