多用で寛容な性格に自由な楽しみ方を感じる
FTR1200に歩み寄ると、シートの高さとオフローダーっぽい雰囲気にちょっと威圧感を覚えないでもない。でも、跨ってみると、足着き性はそれほど良くなくても、意外なほど安定感がある。燃料タンクをシート下に配置したことで、低重心化が図られているのだろうか。車体を少々左右に揺すると逆に自信が増すほどだ。
もうこうなると、少々シートが高くても、その取り扱いやすさから感じる車格はビッグⅤツインのストリートネイキッドであるかのようだ。付け加えると、身長161cmの僕には足着き性に難があっても、跨ったままサイドスタンド操作もでき、乗り降りのストレスから解放されるのも嬉しい。
取り回してみても、ハンドル切れ角は一般的なネイキッドモデルよりも大きく、スクランブラーを思わせる。それに燃料タンクが小振りだから、一層扱いやすい。押し歩きも、フリクションも小さい感じで、軽快だ。その辺りは試乗前からFTRの素性の良さを感じたポイントだ。と、走り出す前にこいつがどんなバイクなのか混乱気味になりながら試乗に移ると、今度は意外性が増してきた。その豊かなトルク感ときたら、まるでクルーザーのようなのだ。マイルドでゴツゴツはせず、粘りもあって優しい力持ちを思わせる。
120PSを8250rpmで発揮するエンジンは、レッドゾーンも8000rpmと低く、今日の高性能Vツインのようには高回転化されておらず、鼓動感のあるトルクで走るのが似合っている。ワインディングでも3~4000rpmでコーナーをリズミカルにこなせる。
クルージングでは、150㎜とやや長脚の前後サスが路面の不整を吸収、鼓動感と相まって実に快適な気分に浸れる。ストリート寄りのアドベンチャーツアラーを思わせる乗り味だ。車体の剛性感からも、FTRの素性の良さが感じられる。部分的に硬さを感じたり、逆にしなり過ぎるといったことがなく、全体からしなやかな剛性感が伝わってくる。だから安定していて、そのことがコーナリング性能にも貢献している印象だ。
実際、意表を突かれるほどに感心したのが、ワインディングでのコーナリングである。この手のバイクに熱いコーナー走りなど期待すべくもないとの頭があったことも否めないが、攻めるほどに楽しくなってくる。
マシンの旋回性にライダーが追随していくのではなく、ライダーの意思にマシンが応えてくれるからだ。前後19/18インチという伝統的なホイール径のバランスを、今さらのように見直してしまう。
それに、大径のホイールに加え、ストロークが豊かなサスのおかげで、路面の不整の影響を受けにくく、乗り手をビビらせる場面が極めて少ない。そんなわけで、もっと楽しもうという気にもさせられる。
こんな具合に多様な側面を見せるFTRである。ただ、ここでお断りしておきたいのは、こうした多様性がチグハグに感じられることはなく、混然と溶け合ってFTRのキャラを造り上げていることである。おかげで、それぞれのシチュエーションにおいて、自ずとそうした特徴を生かせることになる。
そうした意味で、FTRは楽しみ方の創造性をかき立てられるバイクでもある。インディアンは、このFTRを「ニューアメリカンスタンダード」と位置付けている。そんなオールマイティなフラットトラックレーサーが誕生した。
RIDING POSITION(身長:161㎝ 体重:53㎏)
アップライトなライポジはフラットトラックレーサー譲り。ハンドルはワイド気味で、上体は起きているが高く感じることはない。足着き性はアドベンチャーに近いが、低重心化、マスの集中の恩恵により安心感がある。
SPECIFICATIONS
全長×全幅×全高 2286×850×1297mm
ホイールベース 1524㎜
シート高 840㎜
車両重量 235㎏(S)、230kg(STD)
エンジン形式 水冷4ストDOHC4バルブV型2気筒
総排気量 1203㏄
ボア×ストローク/圧縮比 102×73.6mm/12.5
最高出力 120PS/7250rpm
最大トルク 11.7㎏-m/6000rpm
燃料供給方式 FI
燃料タンク容量 12.9L
キャスター角/トレール量 26.3°/ 130mm
変速機形式 6速リターン
ブレーキ形式 前・後 ダブルディスク・ディスク
タイヤサイズ 前・後 120/70-19・150/70-18
文/和歌山利宏
[ 問 ] ホワイトハウスオートモービル
TEL.03-5426-1906