バッテリーが進化すれば街の「主役」になりうる完成度
PCXは巧みな変速設定で、動力性能に不満を持つユーザーは少ない。だから「量産市販車初のハイブリッド」は本当に必要なのか疑問だったのだが、それは走り出してほんの数分で消えた。
モーターアシスト機構によって、小型スクーターの常識を覆す力強さを見せつけられたからだ。
最大の違いはスタートダッシュの鋭さ。
市街地では当たり前の、青信号と同時にワイドオープンという操作では動き出しの鋭さと50㎞/hあたりまでの加速が圧倒的に速い。
スロットルを開いて4秒間がフルアシストで、以後はアシスト力が弱まってエンジンのみの走行に移行するが、アシスト状態はメーターのインジケーターを見ていないと判らないほど滑らかに制御されている。
ちなみに、デフォルト設定の「D」モードでもPCX150なみの力強さ。「S」モードで初めて全開にした時は、動き出す瞬間に上体が置いて行かれそうになったほどだ。
ゼロ発進の鋭さは遠心クラッチのミート回転数を高めることでも実現できるが、そうした設定だと騒々しいうえに、唐突にダッシュするため市街地や滑りやすい路面では扱いにくいどころか危険なこともある。
しかし、このPCXハイブリッドは、スロットル開度に合わせてモーターのアシスト力を調整するから唐突さは全くない。
特にDモードは自然な加速で、言われなければモーターアシストの存在に気付かないだろう。
Sモードとの違いはこの動き出しの瞬発力で、速度が乗るほどにアシスト力の差は感じなくなる。Dモードでも普通のPCXよりはるかに力強いから、Dモードだけでも充分だ。
なお、スタンダードPCXは停止から約3秒でアイドリングストップ機構が働く。エンジンが止まるので再始動のタイムラグを嫌ってこの機能をオフにするライダーもいるが、ハイブリッドは停止から約0.5秒でエンジンが止まり、スロットルを開けた瞬間、再始動すると同時にアシスト力が加わって加速を始める。
スロットルを開いた瞬間に動き出す感覚なので、アイドリングストップ機構はまったく邪魔にならなかった。
ハイブリッド化で増加した重量は5㎏。普通のPCXと交互に乗ってもその差はほとんど感じられず、ハンドリングも制動力も変わらない。
アシストの恩恵が大きい坂の多い地域の人や、タンデムの多いライダーには迷わずハイブリッドを勧める。
文:太田安治/写真:南孝幸
ホンダ PCX HYBRID の主なスペックと価格
全長x全幅×全高 1925×745×1105㎜
ホイールベース 1315㎜
シート高 764㎜
車両重量 135㎏
エンジン形式 水冷4ストOHC2バルブ単気筒
電動機種類 交流同期電動機
総排気量 124㏄
ボア×ストローク 52.4×57.9㎜
圧縮比 11.0
最高出力 12PS/8500rpm(エンジン)
1.9PS/3000rpm(モーター)
最大トルク 1.2kg-m/5000rpm(エンジン)
0.44㎏-m/3000rpm(モーター)
燃料供給方式 PGM-FI
燃料タンク容量 8.0L
変速機形式 Vベルト無段変速
ブレーキ形式 前・後 φ220mmディスク・ドラム
タイヤサイズ 前・後 100/80-14・120/70-14
メーカー希望小売価格:10%税込44万円(スタンダードのPCXは税込34万8,700円)
※受注生産車:PCX HYBRIDは「Honda二輪EV取扱店」での取り扱いとなります