俺とモーターマガジン社の付き合いは10年以上前にゴーグル誌から始まった。
振り返って見ると様々な場所でいろんなオートバイを撮影してきた。
それぞれのカットにこだわりや苦労があるんだが、そんなお気に入り写真を掘り起こしてもう一度ウェブでご覧いただく連載を始めることになった。
ついでにそんな写真にまつわるカメラマンのウダウダ話にも付き合ってもらおう。
この写真は2007年に撮影した。俺がGOGGLE誌の撮影を始めた頃のもの。
被写体となったオートバイはモトグッツィ「GRISO」(グリーゾ)。
モトグッツィはイタリアでは歴史の深いオートバイメーカーのひとつ。
会社のオーナーが何度か変わりながらも、ヘッドが燃料タンクより左右に張り出すV型2気筒エンジンを貫き通した男が惚れるオートバイ。
GRISOは元々スペイン語の苗字でグリソと発音するらしいが、イタリアではグリーゾらしい。
スポーツバイクなんだけど日本車が決めたレールに沿わず、クラシックとモダンが同居し、マッスルでどう猛な獣を連想させる大衆に媚びないデザイン。
他のどんなバイクとも違う個性的なその姿だが、そのデザインに負けないくらい乗り味もどう猛でユニーク。
より格好良くなって継続生産しているが、残念ながら現在では日本には輸入されていない。
「撮影場所はもう決めてある」と編集者に連れていかれたのは、この写真の背景の古い倉庫だった。
いい具合に汚れた抜群にカッコイイ扉ですが、建物と建物の間が狭くグリーゾを置くとカメラまでの距離が2mもない。なのに「真横で車体を全部入れて。しかもドラマチックに」と編集者は言う。
さすがに車体全部は入れないが、できるだけ広く撮りたい。
そこで広角レンズを使いつつ、歪みが目立たない様に工夫。低い位置からストロボを入れて、壁に映った影で怪物っぽさを演出しつつ撮った。深緑の壁とグリーゾの赤のコントラストも良かった。
普通に見える写真に見えない苦労と楽しさがある。この倉庫はすでに取り壊されてしまったが、そこを通るたびに編集者からの無茶ぶりを思い出して懐かしい。
写真・文:柴田直行