四半世紀ぶりに蘇ったWシリーズ
その後、Wファンは四半世紀もの間、新機種を待ち続けることになる。
そして待望のブランニューモデルが、1999年のW650だった。
「美しいモーターサイクルを作りたい」という想いから、いかに造形美に優れるエンジンをつくるかにまず情熱が注がれる。
Wのアイデンティティである360度クランクの並列2気筒であることは譲れない。サイドカムチェーンにしてしまえば、冷却フィンの刻みを妨げてしまう。
そこで開発したのが、ベベルギヤによるカムシャフト駆動。
コストも手間もかかるが、Wの復活に一切の妥協はなかった。
上質感や所有する歓びにこだわり、エンジンに〝火をいれる〟イメージを抱かせるキックスターターも採用。
かつてのW1がそうだったように、世界最速をライバルらと競うべく300㎞超えの実力を持つZX‐12R(00年発売)を開発する真っ只中、ツインならではのフィーリングやテイスティさを追求した新たなWが誕生したのだ。
ライダーは歓迎し、昔を知らない若者たちもW650に酔いしれた。
スペックや速さを追い求めるのではなく、日々の暮らしで〝愛でる〟ことを楽しめるバイクライフがそこにはあり、肩肘張らず気軽にオートバイを走らせることができる。
650はもはやビッグバイクではなく、手頃なサイズに。
大型ニ輪免許は教習所で取得でき、Wは一部マニアのものだけではなくなった。
そのシンプルな車体構成によって、ストリートカスタムのベースにもうってつけで、スタイルやカタチにとらわれることなく様々な要望や期待に応えることができたのだ。
2009年にファイナルエディション
W650の最終モデルであるファイナルエディションは初登場から10年後の2009年4月10日に発売。
排ガス規制に対応できず惜しまれつつの絶版となった。
排気量だけではない兄弟車との違い
〝男カワサキ〟のイメージを地で行くかのような存在であったWシリーズだったが、台頭するレディースライダーも獲得しようとターゲットを新規層に絞ったのが、2006年に発売されたW400だった。
カタログに男性の姿はなく、そこにいるのは強い意志と自立を感じさせるアクティブな女性たちのみ。
毎年新たに誕生する20数万人の普通2輪免許所有者が乗れ、ファッションにこだわる都会の若者たちにもWという選択肢をアピールした。
インチ径で太かったハンドルバーは、ミリサイズでグリップの握りを細くし、シート高も35㎜下げて765㎜という低さに。
コンパクトなライディングポジションとしながらも、上質感に満ちあふれた〝本物〟を感じる車体で、真っ直ぐに伸びたマフラーは相変わらず心地よい歯切れの良いサウンドを奏でた。
Wならではの良質な味わいを、軽快でより身近な400クラスでも体験できることは贅沢なことだ。
アート性に富んだ造形美しいエンジン、しっかりとした骨格をつくるダブルクレードルフレーム、貫禄あるトラディショナルなクロススポーク仕様のホイールなど、W400はクラスを超えた上質感に満ちあふれ、ビギナーたちをより上級モデルへと誘う。
ライディングスキルを磨くにも、クセのないハンドリングと扱いやすいエンジンはうってつけ。
ビッグスクーターから乗り換えたライダーにも、オートバイを操る楽しさを、そして樹脂ではない金属のパーツを磨き込む歓びも教えたのだった。
ファイナルエディションは2009年
W650同様に平成20年の排ガス規制に対応することができず、2009年4月10日発売のファイナルエディションを最後に生産終了となった。