忘れられないローライダーのビキニカウル
撮影日が11月だったから2017年モデルの追加ラインナップだったはず。編集者に次の撮影は「ローライダーのカスタム的な」と聞かされて期待が高まった。
当日ご対面したローライダーSはブラック&ゴールドでシックに決めたこの上ないクールな佇まい。ビキニカウルとシングルシートが走りのハーレーであることを主張している。
ローライダーSの登場の背景には映画の影響があると聞いたことがある。でも俺にはクラブスタイルもXLCRも関係なく、別のストーリーがあった。
1986年、初めてのアメリカ取材の際に訪れたデイトナ。派手にカスタムしたハーレーが集うメインストリートから少し外れた路地。ビキニカウルをつけた黒金のローライダーが控えめに停まっていた。地味なのに存在感があって、クルーザーなのに速そうで。あの時のローライダーを忘れることができない。
当時の米国ではビキニカウルをつけたローライダーは、ビッグツインでカッ飛ばすというへそ曲がりな少数派の定番カスタム。日本ではまだハーレーはテイストを味わう時代であり、編集者たちは「ローライダーにビキニカウルは似合う」という俺の意見に「意味不明」の表情で笑っていたことを思い出す。いつの間にか少数派は正式ラインアップになるほどの支持を獲得していた。
今回、ご覧いただくのは2016年にデビューした時のローライダーS。エンジンはチューニングされたスクリーミングイーグルのツインカム110を搭載。速度制限規制が緩くなった米国のフリーウェイで他を置き去りにするにはこのパワーが必要だ。
なお最新の2020年モデルではミルウォーキーエイトエンジンを搭載したローライダーSがラインナップされている。
エンジンや車体は徹底的にブラックアウト。しかもグロスやマット、さらにシボなど様々な黒色を使っており、それらを潰さずに魅せる写真にしたい。
なのにこんな日に限って撮影する橋は逆光。さすがに空のトーンが真っ白に。いや車体が黒だから空は真っ白でいいか、と悩みながら撮った。
締めはローライダーSに相応しい工場地帯へ。逆にここではなんの悩みもなし。ローライダーSをそこに置くだけで絵になっている。
あの時の存在感を思い出しながら、俺はただシャッターを押すだけだった。
写真・文:柴田直行