S1000RR誕生の前、特別な存在感を示したモンスターマシン
今回はBMWのHP2メガモトというレアなバイクの話。知ってる人はかなりのマニアだと思う。
当時、ツーリングバイクが主なライナップであったBMWが、自分たちのアイデンティティである水平対向エンジンを使ったスポーツバイクを生産した。BMWなのに快適さや長距離性能を無視して、乗る楽しさだけをピュアに追求。その名もHP2。まだS1000RRが発売される前の話だ。
HP2はオフ、モタード、ロードスポーツの3台があり、エンジンはいずれも空冷水平対向の1200cc。ライテク自慢のエキスパートライダーだけをターゲットに絞り込んだ、ゴリゴリにガチで怪物的なマシン。そのモタードバージョンがメガモトである。
と言いつつ、もしかしたら現行のF850GSの方が速くて乗りやすいかもしれないが、そういう話じゃない。メガモトはその存在感からして怪物なのだ。
写真は長野県の白馬で行われたメガモトの試乗会で撮影したもの。
雰囲気のいい高原のホテルで行なわれた試乗会には本社のデザイナーも参加。夕食時には杯を重ねバイク談義に花が咲いた。
BMWはご存知の通りドイツ製だが、そのデザイナー氏はなんとアメリカ人でしかもオフロード好き。日本製のモトクロッサーが大好き。
そう言われて納得。空冷水平対向エンジンなのに水冷オフ車風のシュラウド(通常だとラジエター横のタンクカバー)が付いている。兄弟車のオフロードバージョンもモトクロッサーそっくりな佇まい。こりゃオフ好きの俺と気が合いそうだと、また1杯。
さて写真で分かるだろうか? その車体はかなりデカい。その高性能を引き出すにはライディングの腕前とともに欧米人並の体格が必要だと思われた。
ご相伴に預かり、俺もオフロードバージョンであるHP2エンデューロに試乗。恐る恐るのアクセル半分でもアドレナリンが湧き出るドキドキの楽しいバイクであった。
ところが、走っている時は楽しいが、止まった時に足が着かない。お尻をズラして片足着地を試みるも、つま先が虚しく空を切る。無理に着ければ股裂きの刑となる。
仕方がないので、信号の度に飛び降り、飛び乗り。オフ車育ちの俺は普段は全く足つきを気にしないが、この時ばかりは小柄なライダーの気持ちが痛いほど理解できた。
走行シーンはライダーを務めてもらった内田一成さんの提案で、白馬の雪渓をバックに走れる道へ。まるでヨーロッパのアルプスの如き光景に、俺のテンションは急上昇。メガモトを振り回せる内田さんの腕前が羨ましかった。
もう道ですれ違うことはないくらいレアなバイクだが、メガモトも平成の名車として忘れられない一台だ。
写真・文:柴田直行
柴田直行/プロフィール
柴田直行 しばたなおゆき
1963年3月生まれ
横浜市在住
オートバイとライダーをカッコ良く撮るのを生業にしているカメラマンです。
ホンダVT250Fが発売になった1982年(19歳の頃)にオートバイブームに乗じて雑誌編集部にバイトで潜入。
スズキGSX-R750発売の翌年1986年に取材のため渡米。
デイトナでヤマハFZ750+ローソンの優勝に痺れてアメリカ大好きに。
ホンダCRM250R発売の1994年に仲間とモトクロス専門誌を創刊して、米国系オフロードにどっぷり。
カワサキニンジャ250が発表された2007年から、ゴーグル誌でも撮影を担当し現在に至る。
オンでもオフでも、レースでもツーリングでもオートバイライフが全部好き。