「おかえりなさい」と言える1年に1度だけの特別な日
「たまには実家に帰ってこないかい? この日はあなたが生まれた所も見ることができて、兄弟も同窓生もいっぱい集まるよ。美味しいカツカレーうどんを作って待ってるから、熊本に帰ってきなっせ」。
バイクを擬人化して例えるならば「ホンダモーターサイクルホームカミング」はこんな感じのお誘いである。
昨年からスタートしたこのイベントは、ホンダ二輪製品のマザー工場である熊本製作所という親元から離れ、ユーザーの元へと巣立った可愛いバイク(乗り)たちに集まってもらおう、愛車の実家に帰省してもらおう、という趣旨のもの。
そう言われたら、行ってみようかなとなるのがバイク乗りってもので、実際、今年の来場者は1900人、二輪車の来場者は870台というから、やはり、バイク乗りは人情に厚い。
もちろんホンダとしても、ただ集まってもらうだけではなく、せっかくならばオモテナシをしたいという感覚は実家の母親と同じ。さらにやりすぎなところも似ている。生産ラインの見学に、CB60周年の特別展示に名車デモラン、スペシャルトークショー、さらには、バイク試乗会にパレードランと、非常に濃いメニューでユーザーたちを迎えてくれる。そう、1年に1度の特別な日にするために。
ホンダユーザーだけの特権、工場の未公開エリアを見学
「ホームカミング」の会場は熊本製作所と言いつつも、隣接するサーキットの「HSR九州サーキットコース」も含めたもので、そこで、バイク試乗会やパレード走行を開催。面白いことに試乗会のスタッフには、そのモデルの開発責任者が混ざっていたりする。話しかけてみたら「実は〇〇の開発してました」なんてことも。
メインステージのスペシャルトークショーでは『プロジェクトBig‐1からNeo Sports Cafeへ』と題して、PROJECT BIG‐1の開発責任者を務めた原国隆氏や、CB1000SF/CB1300SFのデザイナーである岸敏秋氏、そして、最新のCB/CBR650Rの開発責任者である筒井則吉氏が登壇し、これまでのCBの開発秘話だけでなく、今後のCB像についての話にも発展。
現役車両の開発担当者もいるだけに言えないことばかりだったようだが、これこそ、来場したユーザー、特にCBユーザーが最も気になっている話。何よりのお土産と言える。
実はこの「未来のCB像」という話題は、今年のCBオーナーズミーティングの各会場でも盛り上がっているテーマのひとつ。ホンダの開発担当者やメディアが登壇し「未来のCB像」への思いを語っているのだ。
そして、このイベントのスペシャルプログラムはなんと言っても生産ラインの見学。この日、ホンダのバイクに乗ってきた人だけが許される限定メニューだ。加えて、工場の中ではエンジン分解実演もやっているので見応え十分! 驚いたのは、このエンジン分解実演は、予定されていた回数よりも多くやっていたこと。
見学するユーザーさんが多かったからだそうだが、そのサービス精神に脱帽だ。あ、脱帽って言っても工場内では帽子着用が義務なのでちゃんと被ってましたから。ホンダ関係者の方、安心してください。
ユーザーの顔が見えるから生み出せるバイクがある
様々なイベントを体験したら当然お腹が空いてくる。社員食堂で食べられるのは、名物のカツカレーうどんだ。ホンダファンやカレーマニアなら誰でも知っていると言っても過言ではない、ホンダの社食で食べられる激ウマなカレーうどん。
毎週金曜日だけのメニューなのだが、この日は特別。熊本製作所の味が楽しめる。これを目当てに来ている人も多いと聞き、これぞまさにユーザー目線のオモテナシと言える。
実はこの「ホームカミング」は、広い会場で、丸一日遊べる充実のプログラムに目が行きがちだが、それよりも何よりも、ホンダの従業員が、買ってくれたユーザーに対して、心を込めたオモテナシを表現しようという、心意気が何よりも気持ち良い。
朝イチ、入場の際には、熊本製作所で働く従業員が、ホンダ伝統の真っ白なユニフォームと緑の帽子をかぶって「おかえりなさい」と出迎えてくれる。これをされて嬉しくないユーザーはいないはずである。
ともすれば、排気量や馬力などに惑わされやすい、バイクという趣味の世界。だがしかし、こんな心意気を持ったホンダなら、これから、バイク乗りにとって様々な規制に翻弄されるツマラナイ時代が来てしまったとしても、「これは乗らなきゃ!」と、ワクワクさせてくれるモデルを造ってくれるに違いない、そうであって欲しい、と願わずにはいられない、自信と誇りが垣間見えるイベントだった。
もし、来年もこの「ホームカミング」が開催されるのであれば、ホンダユーザーはもちろんのこと、ホンダを知らない、ホンダに乗ったことがないライダーも、今の愛車に乗って参加してみてはいかがだろうか。
会場入りするだけで、あなたはきっと有名スポーツ選手の凱旋帰国のような熱烈な歓迎を受けるだろうし、ホンダの魅力、強さ、そして、多くの人がホンダを選んでいるワケを感じとることができるはずだ。もしかすると、アナタ自身がファンになってしまうかもしれないが…。
レポート:月刊オートバイ編集長 松下尚司
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