CBRのスポーツ性能を公道で楽しむには?
「電子制御を煮詰めた19年型CBR1000RR SPは、鈴鹿8耐ライダーの気分が味わえる1台です」(伊藤)
昨年に続き、今年もホンダドリームRT桜井ホンダから鈴鹿8耐に参戦させていただきました。マシンは2018年型のCBR1000RR SP2でしたが、身長190センチの濱原颯道君と168センチの作本輝介君と3人体制でチームを組んだので、マシンのセットアップが大変でした。
最初は、JSB1000に桜井ホンダから参戦している颯道君に合わせて用意された、ホイールベースが少し伸びたスイングアームが付いていたのですけど、作本君はこれだとリアが全くグリップしないと訴えました。そこで決勝ウィークに、ノーマルのスイングアームに戻すことをチームにお願いしました。
ライディングポジションは颯道君に合わせないと、彼は体が大きいから入らない。それでサスペンションのセッティングは最低限、体重が軽い作本君が安全に走れるように仕上げました。
予選はタイムアタックに失敗して23番手に留まりましたが、決勝のレースペースは2分11〜12秒くらいで刻めるだろうという自信はありました。予選では他のライダーの後ろを走らず単独走行で、搭載するガソリンも多めに積んで走りました。この辺りは決勝は予選と違う状況で走ることになることを、2人にわかってもらうことを意識してやりました。
ライダー、スタッフみんなの頑張りで、決勝は10位で完走することができました。最初のスティントの時の、セーフティーカーの1台目の後ろに颯道君がつけることができたら、あと2つ順位を上げて8位なることもできたかもしれません。
2台目の後ろにつくことになって、1分以上のハンデを背負うことになりましたからね……。まぁ、タラレバの話ですけど、うちのチームは柔らかめのタイヤを使いましたが、20周を超えるとグリップが低下して大変でした。でも2人とも、よく頑張ってくれたと思います。
さて、CBR1000RR SPについては、月刊オートバイ2018年3月号で取り上げましたが、その時は街乗りでの使い勝手の話がメインでした。今回はその本分でもある、スポーツ走行時の楽しさについて、検証しようと思います。
僕もCBRの開発に関わり、市場から上がって来た要望を分析して次期モデルに盛り込んでいます
CBR1000RR SPは、外観からは2017年のデビュー時から特に何も変わっていないと思う人が多いと思いますが、17、18、19年型と電子制御など細かいところが変わっています。自分もCBR1000RR SPの開発に関わっていますが、市場から上がってきた要望を分析して、それを次の年のモデルに盛り込んでいます。もちろん開発は自分だけでなく、複数のテストライダーの方々と一緒にやってます。
19年型は走行モードの中身が変わっています。一番パワフルなP1は、ヨーロッパからの要望で前年型より少し元気になってます。ただ要望を満たすためにちょっと元気にしてますが、「行き過ぎない」ようにしています。実はP値(エンジン出力レベル)で最も高出力のP1は、最初はもっと過激だったんですよ。これだと誰も乗れない、というくらいに……。
開発当初のP1はアクセルを開けた瞬間にドーンとパワーが立ち上がる感じになっていました。そこで、結構出力を絞ったんです。開け始めから数%は、ちょっとゆっくり開く緩速のスロットルにするとか、色々工夫しているんですよ。電子制御スロットルなので、その辺の設定は何とでもできるんです。
なお、レース用ではP値が16くらいあるのですが、レースでもスロットルに対するレシオがフラットなP1は使わないですね。P4とかP7とか、開け口を絞ったものでレースをしています。その辺りはスプリントと鈴鹿8耐でも設定が変わるのですが、耐久レースは燃費が大事なので少し燃料を絞る傾向になります。リッター7km走らないといけないんですよ。
1スティント28周走って、丁度燃料がなくなるくらいです。ピットに帰ってくると、燃料タンクには200ccとか400cc残っているくらい。燃料計はなくて警告灯だけですから、見逃したらアウト! です。電子制御のセッティングは、ライダーの乗り方で変わってくるので、人それぞれです。
今回の鈴鹿8耐でも、各ライダーの間であれが良い、これが良いという議論になるのですが、結局マップを切り替えたりせず、同じセッティングで3人とも走ることになりましたね。
19年型CBR1000RR SPでは、モード1だけでなくモード2も3も前年型から変えています。トラクションコントロールやウィリー制御とかも、同様にブラッシュアップされています。公道ではとても試せないですけど、2速全開で150〜160km/hも出ますからね……。
一般的なライダーの方には扱いきれない高性能で、初心者向きではないですけど、この感覚はCBR1000RR SPでしか味わえないのも確かです。高回転時のマフラーの音質も、最高に良いですね。
出力的にはモード2か3で十分で、マニュアルで細かくいじらなくても良いと思います。もちろんエンジン出力レベル、トルクコントロールレベル、エンジンブレーキレベルすべて調整できるので、設定次第で特性をガラリと変えることも可能です。どんな「走りオタク」の方でも、好みのセッティングを出すことを楽しんでいただけると思いますよ。
「一番良いものが欲しい!」と言うライダーにはSPは自信を持ってオススメできる1台です
オーリンズの電子制御サスペンションは、微小ストロークの動きがとても良いので、路面状況の悪いところでも楽に走ることができます。作動性の良さはレースにはもちろん、公道走行でもそのメリットを感じることができました。
ライディングポジションは前傾が強いですが、リッタースポーツの中ではツーリングにも使える方で、概ね乗りやすいと言えると思います。ただツーリングでのライポジで普通に乗っていると、ちょっと腰高に感じるかもしれません。
CBR1000RR系は本来リアを沈めさせないと、ポテンシャルを引き出せないバイクなので、やっぱりコーナーではハングオンの姿勢を取ると、ちょうど良いフィーリングになります。シートはシングルシートになっていますが、基本的に造り方の考え方はスタンダードのCBR1000RRと一緒です。
材質、形状などを工夫して、結構考えて造り込まれたシートになっています。リアのグリップ感とかはお尻で感じるものなので、スポーツバイクを作る時にシートは重要な部分ですね。
ブレンボ製のフロントブレーキはタッチが良くて、指1本でコントロールができます。ABSの出来栄えは素晴らしく、スポーツ走行をしていてもその介入が違和感なく仕上がっています。自分が今まで乗ったモデルのなかでも、これはベストに近いABSだと思いますよ。ロール角センサーなどから得たデータを使って制御しているので、サーキットを走っても違和感がない。同じABSと言っても、ひと昔前のものとは別物です。
19年型のOEMタイヤはピレリを採用していますが、開発もこのタイヤで行いました。もちろん開発時はいろんなタイヤを試していますが、車体が基本的に良いのでどんなタイヤを履いても問題ないです。その点、リプレイスタイヤを選ぶ楽しさもあるマシンに仕上がってますね。
CBR1000RR SPはスタンダードより40万円以上高価ですが、自分が買って公道のみで楽しむなら、安いスタンダードの方でもいいかな? スタンダードでも完成度は高くて、乗り方を工夫すれば自分ならSPとの40万円以上の差をなくすことができると思うので……。
でもSPのほうはカラーリングも格好良いですし、装備の内容を考えると40万円ちょっとの価格差のSPは安いと言えるとも思います。一番良いものが欲しい! という方には、街中を走っていても鈴鹿8耐ライダーの気分を味わえるSPは、自信を持ってオススメできる1台だと思いました。
CBR1000RR SP
●全長×全幅×全高:2065×720×1125㎜
●ホイールベース:1405㎜
●シート高:820㎜
●車両重量:195kg
●エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ直列4気筒
●総排気量:999cc
●ボア×ストローク:76.0×55.1㎜
●圧縮比:13.0
●最高出力:192PS/13000rpm
●最大トルク:11.6kg-m/11000rpm
●燃料タンク容量:16L
●キャスター角:23゜20 ′
●トレール量:96㎜
●タイヤサイズ(前・後):120/70ZR17・190/50ZR17
●ブレーキ形式(前・後):ダブルディスク・ディスク
■価格:254万1000円(10%税込)
伊藤さんの注目ポイント
Detail
RIDING POSITION
「前傾姿勢はキツめだが下半身でホールドしやすいポジション」
シングルシート仕様なので、当然今回はタンデムでの評価はナシ。スーパーバイクカテゴリーのベースモデルということもあり、自然と前傾はキツ目となる。しかし、他社のリッタースーパースポーツたちと比較すると、CBR系は一番公道での使用にも耐えうる居住性と言えるだろう。
大関さんは長距離移動時に手首がツラいとコメントしたが、伊藤さんは下半身でちゃんと車体を押さえることができていれば、自然と上半身と腕の疲労度は少なくなる……とアドバイス。
写真:松川 忍/モデル:大関さおり/まとめ:宮崎 健太郎