様々な神様が祀られて、様々なご利益があるとされます。
でも、本当のトコロ、その実態を理解しきっているかという、自信がなかったり……。
「神社拝走記」では、そんな身近であり、奥深い各地の神社を巡っていきます。
※今回の記事は月刊オートバイ2017年8月号で掲載したものを加筆修正しております。
まずは自己紹介をさせてください。
初めまして。神社巡拝家の佐々木優太です。
え? 神社巡拝家なんてを聞いたことがない? そうだと思います。
それもそのはず、僕が作った肩書ですから! 何をする仕事かというと、そうです、その名の通り「神社を巡ること」が仕事です。
神社巡拝家/シンガーソングライター 佐々木優太
兵庫県加古川市出身の神社巡拝家/シンガーソングライター/ラジオパーソナリティー。
音楽や神社についての知識はもちろん、柔道(初段)や居合道(三段)、杖道(二段)、はたまたミリタリーなどにも精通。神社広報誌への寄稿やラジオ番組も多数担当。
全国47都道府県の神社を1万社以上巡り、収集した御朱印は4000を越える。普段は白いシャツに下駄を履くスタイルがトレードマークでもある。
著書に『全国1万社を巡った僕が見つけた 開運! あやかり神社』(双葉社)がある。
いまのバイクには約半年前に乗り始めたばっかりで、僕自身やっと慣れてきたところです。
もともとはシンガーソングライター(というか今も。むしろそれが本業だと自分では思っている!)で、現在はラジオパーソナリティとしても活動させていただいています。
歌やトーク、そしてオートバイでの旅など、僕の活動全てが神社と繋がっています。だからそれらをまとめて、神社巡拝家と名乗ることに決めました。
何を隠そう、リターンライダーです! 前の愛車であるドゥカティ916を降りて数年。
バイクに乗り始めた頃は、いろんな理由をつけてバイクを降りていく大人たちを見て「意味がわからない、俺は乗り続ける」と強く思っていました。
だけど自分も結局、年齢、立場、家族と、いろんな理由でバイクから離れてしまいました。その時わかったのが、あの頃の大人たちの気持ち。
降りたくて降りた訳じゃない。乗りたいのに乗れない時期もある、ということでした。乗りたいのに乗れない気持ちの毎日、心を埋めたのは何か。それはバイク雑誌「RIDE」でした。
多くの人がきっとそうであるように、僕も東本昌平先生の画に自分の心を重ねていました。乗れない時だからこそ、オートバイRIDEを読んでいたかもしれません。
そんな時、連載のお話をいただいたのです! 嬉しさを言葉にできず、今もずっとニヤケています! バイクとの出会いは18歳の時でした。いつもの神戸三ノ宮駅、ストリートライブ。
いつも顔を合わせる先輩ミュージシャンが、その日は来ていませんでした。その時、ロータリーに響く轟音! 真っ赤なバイクが僕の前で止まりました。
先輩ミュージシャンが、買ったばかりのバイクに乗ってやってきたのです。
無理に勧められ跨らせてもらいましたが、まだバイクに興味がなかった僕は何の感動も覚えませんでした。それがイタリアのバイクだとは知らずに……。それから何日後かに、次は後ろに乗せてもらい峠へ行きました。
僕はそこで目覚めました。バンクした後、起き上がってくる時の鼓動! ヘルメットのなかで、ニヤケたことを今でもよく覚えています。
その後、その粘りは2気筒の特性だと教えてもらいました。そこからは猛勉強。あ、バイクのことです。夢はドゥカティに乗ることと決めました。
上京後、無理をしてやっとの思いでドゥカティ750SSを購入。いつか乗るなら、借金してでも今乗らなきゃ。そして次は916。
僕のバイク人生も順調かと思われました……が! バイクを降りることになりました。
この涙なしには語れないストーリーは、また別の機会に。バイクを降りていた間に、自分の中で大きく変わったことがありました。
それは、20代から30代になったということです。20代の頃は、人と違うもの、人よりも良いもの、という自分のなかの勝手な基準でものを選んでいました。
その基準を満たすためだけにお金を使っていたように思います。
バイクに関して言えば、できるだけ大きいバイク、できるだけ速いバイク、出来るだけ目立つバイクというように。
とにかく、人と自分との違いを出すことに固執していました。
しかし、20代後半から30代前半にかけて全国の神社を巡っていて、考え方が変わってきたのです。
浮かんだのは「スタンダードが似合う人間になりたい」という言葉でした。
着飾っても見抜かれてしまう。ならばスタンダードなものが似合うようになりたい。普段の服装も、白いシャツにジーンズ、下駄とシンプルになっていきました。
水冷エンジンの性能とパワーにだけにしか向いていなかった視線が、空冷エンジンのシンプルさに興味を惹かれ始めたのです。
細かいところをいえば、ブレーキディスクです。以前はシングルディスクなんて考えられませんでした。理由は簡単。2枚あった方がいい、人より少ないのが嫌だからです。しかし、それも志向が変わってきました。1枚で充分。
そもそもそんな制動力を必要とするスピードに興味がなくなっていたのです(これからまた志向が変わるかも!)。
排気量の大小に惑わされることなく、シンプルを突き詰める。変わらないスタンダード。今の僕の条件を全て満たしていたのが、ヤマハSR400だったのです。
この機を逃すと、一生乗らない車種かもしれない。全国の神社を巡る旅、新しい相棒に僕は彼を選びました。
信仰は、解釈しだい。じつは「恋愛の神様」なんて、いない?
現在日本には、ありとあらゆるご利益を持った神様がいます。それも数えきれないくらいに。ま
さに八百万(やおよろず)。
すぐに思いつくご利益といえば、恋愛、仕事、勝負、受験などがあります。だけど、誤解を恐れずに言うと、実は日本に恋愛の神様はおろか、これらの神様なんていないんです。
「え!? じゃあ今まで真剣に祈ってきたのはなんなの?」と、思ったあなた。ご安心ください。
これには少しトリックがあります。例えば出雲大社。こちらには年に一度全国から神様が集まって、僕たちの出会いや縁を相談し取り決めると言われています。
ならばと、それにあやかって女性陣が多く参拝するようになりました。その様子から、出雲大社を恋愛の神様と呼ぶ人がでてきたのです。
仕事運の神様や合格祈願の神様も、同じように変化しながら現在に至っています。珍しいところでは、レンズやカメラ業者から信仰をあつめる神社があります。
その神社に祀られている神様は、勾玉(まがたま)を作ったとされています。祭事に使われたり、高貴な人が身に着けたこの勾玉。作るのに、かなりの技術を必要としました。
それにあやかって、現在ではレンズやカメラ業者から信仰をあつめるようになったのです。この寛容さが、日本の神様の最大の特徴といえるでしょう。ここで僕は思いました。
「ならば、バイク乗りのシンボルとなりうる神様は誰だ!?」
そして出会ったのが、栃木県栃木市にある太平山神社です。神社拝走記の記念すべき1社目になります。
と、その前に。
僕の愛車ヤマハSR400は、この連載スタートに合わせて買った新車なのです。
神社を巡る旅に出るというのに、お祓いをしないわけにいかない。
ということで、神社拝走記のスタートにあたり、まずは新車のお祓いをしていただくことに。お願いしたのは横浜市港北区の神社。
もちろん選ばせていただいたのには、バイク乗りの皆さんにも関係がございます。ということで、こちらをゼロ社目の神社として、まずご紹介することにしましょう。
やってきたの師岡熊野神社(もろおかくまのじんじゃ)です。こちらは横浜アリーナから近いということもあり、アリーナでライブを開催する大物ミュージシャンたちの参拝が絶えません。うーん、仲間に入りたい。
こちらの石川宮司には、以前から本当にお世話になっています。なので「石川宮司の神社で、旅をスタートしたい」これが第一の理由でした。
第二の理由は、熊野神社のマークにあります。熊野神社のマークは、八咫烏(ヤタガラス)です。なにやら聞きなれないカラスですが、皆さん一度は目にしたことがあるはずです。
そう、ご存知の方も多いはず。サッカー日本代表のユニホームの胸にある、日本サッカー協会のマークにも使われている三本足のカラスです。
熊野神社は全国にありますが、本家本元は和歌山県の熊野地方です。一説には、サッカー協会立ち上げに尽力された人の出身地が熊野地方で、その縁からヤタガラスをシンボルにしたとか。
話は変わりますがこの師岡熊野神社、日本サッカー協会公認の「サッカー御守」がございます。
読者の皆さんのなかに、サッカー選手やサッカー好きの方がいらっしゃれば是非! ヤタガラスは初代天皇の道案内をしたとされることから、導きの神とされています。
僕がゼロ社目に選ばせていただいたポイントは、ここでした。お世話になっている宮司のもとで、しかも導きの神様のもとで、お祓いを受ける。
これぞ神社拝走記の始まりに相応しいと言えるのではないでしょうか。
お祓いをしていただいたからと言って、事故を起こさないということではありません。起こさぬようにと願うことが大切なのです。愛車SR400の黒とヤタガラスの黒をイメージの中で重ね、次の神社へと出発しました。
バイク乗りのシンボルとなりうる神様は、何の神様か
栃木市にある太平山神社。こちらを1社目に選ばせていただいたのは、他でもなく「バイク乗りのシンボルになりうる神様」が祀られているからです。
この神様、日本中の数ある神社のなかでも、かなり珍しい。
もともとは神話の大事なシーンで、刀を作り出したと言われている神様。そこから転じて、鍛冶の神様として祀られていることが多いのです。
鍛冶と言えば、鉄。大ざっぱにいえば、バイクも鉄からできていますね。だんだん近づいてきましたね。この神様、名前を天目一大神(あめのまひとつのおおかみ)といいます。
読んで字の如く、目がひとつの神様なのです。鍛冶の神様ということで、製鉄する際に必要な道具の「ふいご」を神格化したものという説もあります。
ふいごは穴がひとつなので、その穴を目に見立てたという訳です。僕が注目したのは、目がひとつという部分です。これはまさに、バイクのヘッドライトを象徴しているかのような名前!
「俺のバイクは2灯だけど?」と、思った方も多いでしょう。この神様、別の説では片目をつむった龍だといわれています。まさに片目ずつ点灯するバイクみたいでしょ?(ちょっと苦しいかな)。
神様の性格を勝手に変えていいのかと、そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし前述したとおり、神様の役目やご利益は、時代とともに変化していくものなのです。
ならばこの際、天目一大神をバイク乗りたちのシンボルにしようじゃありませんか!
もしそうなれば、100年後には必ずバイク業界の神様になっているはずです。神社というと、歴史があるもの……そんなイメージがあると重いますが、決して新しい歴史や文化を作ってはいけないものではないのです。
現代に生きる僕たちが触れている神社や神様は、過去の人たちが起こしてきたムーブメントそのものなのです。
宮司・小林一成さん
歴史を感じる社務所で、小林宮司よりお話を伺えました。
興味深かったのは、昔の交通ルールの話。馬車にも交通ルールがあったようで、違反時の罰則は現代では考えられないほど重かったそうです。柔らかな口調に引き込まれました。
偶然にも太平山神社の境内には、交通安全神社というお社があります。
この名前の神社は日本にここだけです。境内にはもう1社、足尾神社というお社があります。こちらは足腰の神様。
まさにバイク乗りには持ってこいの神社ですよね。奉納されている下駄が、僕には他人事とは思えません。太平山神社が「RIDE神社」と呼ばれる日を夢見て……旅は続く。
今回いただいた栃木名物
やきそば&いもフライ 大豆生田商店
栃木県栃木市薗部町2-19-32
いもフライ、この辺りではソウルフードなんですって。
食事中に他のお客さんが、15本もテイクアウトしていかれました。
素材の味そのままに、衣の旨味を引き出す甘いソースをかけて頂きます。
焼きそば麺の歯ごたえとゴロゴロ野菜が相まって、大満足でした。
文:佐々木優太/写真:関野 温/撮影協力:師岡・熊野神社/大平山神社
※今回の記事は月刊オートバイ2017年8月号で掲載したものを加筆修正しております。