※この記事は月刊オートバイ2018年9月号(別冊付録 RIDE)で掲載したものを加筆修正しております。
旅で待ち受ける新たな出会い
全国の神社をSR400で巡る神社拝走記も、2年目に突入しました。
頭の中で描いていたSR400のカスタム計画は、段階を経て手をつけるのではなく、先日いっきに実行しました。そのため、1日で見違えるほどの変身をしたのです。色やSR400の持つ独特の雰囲気は変わっていないものの、乗車姿勢は激変。ハンドルを換えただけでここまで変わってしまうのかと、バイクの奥深さを改めて感じる機会にもなりました。
だって目線が少し下がっただけで、エンジンは同じなのに加速が良くなったように感じるんですよね。高速道路も前傾になった恩恵でより楽しくなりました。
愛車のSR400のカスタム紹介
連載スタートと同時に、新車で乗り始めたヤマハSR 400。純正スタイルで1年間乗ってきました。かねてから妄想していたカスタムを、ここでいっきに敢行しました。
まずは王道のセパハン!
誤解を恐れずに言うと、SRにとってセパハンも純正と呼べるのではないでしょうか。それくらい馴染んでますね(笑)。
そして、マフラーは安心のプラナスのスリップオン。
ステップは、正直…攻めすぎました。
どうせやるならと、タンデムステップ並みの位置のものを採用。
姿勢は満足なんですが、ステップがエンジンから遠くなったせいで、いかんせんギアチェンジが渋すぎる。早くも次を検討中です。
「純正感」を大切に、まずは、ざっとここまで。そう言えば、燃費が驚くほど伸びましたよ。
さて、新生SR400で拝走するのは何処の神社にしようか。そう思っている時に、タイムリーな情報を耳にしました。何やら、2018年7月より「国産4メーカーの絵馬」が揃ったらしいのです!
そこは栃木県真岡市に鎮座する大前神社。以前からバイクが描かれた絵馬が存在していることは知っていましたが…。
バイクと神社とバイク絵馬、これはもう行くしかない。しかも、愛車をカスタムしてから初の神社拝走記。と言うことで、大前神社に向かって疾走り出しました。
真岡市は栃木県の南東に位置しています。東京からの距離は、約100㎞。
失礼ながら「もおか」って、なかなか読みづらいですよね。そのせいか、地元の方々は真岡をもっと知ってもらおうと地元愛が素晴らしく深い!
旅をしていると、地元の方がいろいろとおすすめスポットを教えてくださいました。栃木といえばイチゴ。なんと生産量は、全国1位。紹介していただいたお店は、ほとんどと言っていいほど、イチゴを使ったメニューがありました。
世界一を目指すかき氷「寿氷」
栃木県真岡市荒町5161
氷は水から拘った透明度で、削られてくるのは絶妙な割合で空気を含んだフワフワのもの。 それを限界の高さまで注いでくれます。
味付けはシロップではなく、地元栃木県産のイチゴ「なつおとめ」をすり潰してかけます。
上からかぶりつくと、その度に「イチゴ」をたしてくださいます。素材そのままの味のはずなのに、かき氷にして食べるとここまで違うのかと驚くこと間違いなしです!
そして、焼き物で有名な隣町の益子町へも疾走りましたよ。バイク乗りが集う神社と、バイク絵馬はライダー必見! 早めに梅雨明けした夏空のもと、新生SR400で疾走ってきました。
益子焼の釜飯 益子焼の釜飯
栃木県芳賀郡益子町益子4264
地元栃木で採れた山菜や地鶏、それを一つの器に閉じ込めた「つかもと」自慢の釜飯! 器はもちろん益子焼です。旅先を味わい尽くすって正にこの事ですね。
ここはバイク乗りが集う神社
2017年に比べ、全国的に梅雨明けが早かった。疾走ったのは7月の初め頃でしたが、体感は8月の夏真っ盛りの頃のようでした。
毎年夏でも革ジャンを着て「暑い、暑い〜」と言いながらも、乗り切るのに。今年はいよいよ、そうもいかなくなってきました。
バイクは特に、太陽に加えて跨ったエンジンの強烈な熱波がありますからね。冬用の電熱グッズが出ている時代、そのうち夏用の水冷スーツが一般化したりして。
大前神社の境内はとても広く、そのなかにも幾つかの小さな神社が存在しています。
だいこく様と、えびす様の最強タッグ
大前神社の御祭神は、だいこく様とえびす様。七福神のメンバーでもお馴染みの神様ですね。
多くのことを成し遂げた神様だけに、多くのご利益があるとされています。
でもやっぱりイメージしやすいのは開運招福ですね!
大前神社を参拝し、社殿の裏へ延びる細い参道を進みます。そこに現れる足尾山神社(あしおさんじんじゃ)。この足尾山神社こそが、バイク乗りたちに信仰されている神社なのです。
神社とバイク。どうも直結しない両者のイメージ。この足尾山神社がなぜ、バイク乗りたちに注目され、信仰されるようになったのでしょうか。
交通安全の神社として信仰されている神社の多くは、古の時代に航海の安全を願った船乗りたちが祀った神社などをルーツに持っています。
しかし、足尾山神社はその系統ではありません。こちらの神社が「バイク神社」と呼ばれるようになったのは、10年ほど前からだそうです。
もともと大前神社の境内で祀られていた足尾山神社。御祭神はサルタヒコ。神話の中で道案内をしたことから、導きの神として祀られていることが多い神様です。
そこから転じて、足腰の神様としても信仰されています。その足腰の神様を、バイク乗りたちが信仰し始めたのがスタートだと言います。
「何歳になってもバイクに乗り続けるには、足腰が強くなければならない」という熱い願いがあったんだそうです。
確かに、ライダーは足腰が丈夫でなければ。読者の皆さんも、共感できるのではないでしょうか。
そして、その輪が少しずつ広がりを見せます。バイクに関するものが奉納されたり、それを聞きつけたライダーたちによるイベントが開かれたりと。
参拝者側から起こったこの信仰を、大前神社も快く受けとめ、今も温かく見守っています。
1人のライダーから始まった
バイク乗りたちが集まり呼び始めた「バイク神社」こと、足尾山神社。
今ではライダーたちの集会イベントが、開かれるほどになりました。県外からも、多くのバイク乗りたちが参拝に訪れます。
そんな「バイク神社」も、最初は1人のライダーから始まったのです。
この日、僕が神社へ来るのに合わせて、待っていてくださった方がいらっしゃいます。
その方こそ、足尾山神社がバイク神社と呼ばれるまでになったキッカケを作った人。吉川正人さんです。
現在も、神社の近くにお住まいだという吉川さん。ご自身も、大のバイク好き。そして、バイク乗りです。
10年ほど前に、地元の人同士で「真岡はいつも通り過ぎられてしまう。旅の目的地になれればいいね〜。」と、話していたそうです。
確かに、知らなければ「もおか」と読みづらい。それは地元の方々がよくご存知で、そのぶん地元の知名度を上げたいという思いも強い。
そんな時に、足尾山神社の御祭神サルタヒコのご利益を知ったそうです。それはサルタヒコが足腰の神様ってこと。
そして「いつまでもバイクに乗っていたい。足腰が丈夫でありますように」と参拝し、少しずつ願いを込めてバイクに関するものを奉納していったそうです。
吉川さんは、ミスター・バイクBGに掲載されている漫画「空ちゃんの旅」の作者でもあります。その縁もあってか、徐々に足尾山神社の名前がライダーたちに広がっていったと言います。
そして、いつの頃からかバイク神社と呼ばれる様になったそうです。最初は参拝も奉納も1人だったのに、今では大勢の人が想いを共有しています。
吉川さんが願った「真岡を目的地にしたい」という想いは、神社を中心に多くの人へ伝わったんですね。
「人が集まり、何かが生まれ、広がっていく。神社とはそういう場所なのかもしれない。」と、笑顔で仰っていました。
絵馬に書き遺す今日の想い
吉川さんの想いに賛同した人が、バイクを描いた絵馬を足尾山神社へ奉納したそうです。奉納された2枚の絵馬に描かれていたバイク、それはホンダCB750フォアとカワサキZ 1。
この絵の素晴らしさを、もっと多くの人に知ってもらおうと、神社で頒布を開始したそうです。そして今回ヤマハとスズキも加えられ、国産4メーカーが揃ったというわけです。
これらの動きが、地元の人や参拝者たちから起こされたというのは、本当に素晴らしいことです。いつの頃からか、誰かがそう呼び始めた。これは、神社にとって自然な流れなのです。
僕たちが歴史的だと思っているものでも、意外にも始まりはそういうものが多いかも知れません。
逆に言うと足尾山神社のように「いつの頃からかバイク神社と言われていた」というような事の方が、歴史を作っていくのです。
それを受け入れ、見守っている神社が存在するというのも嬉しいですね。普通に考えると、ガスボンベの奉納やプラモデルコーナーの設置など、許してくれなさそうですが(笑)。
人が人を呼び、想いが想いを繋ぐ。大前神社には、そんな見えないものを感じられる気がしました。これを、ご利益と呼ぶのかも知れませんね。
SR400のカスタム後、初めて臨んだ拝走記。ご祈祷とお祓いも受け、気持ちも新たに疾走り出せそうです。
そもそも絵馬ってなに?
意外と知らない「絵馬」の由来と書き方
その昔、神様は馬に乗って現れるとされていました。その事から神事の時に、馬を奉納していたそうです。
また、水に関する神社では続く雨を止めるために白馬を、逆に雨を降らせたい時には黒馬を奉納したそうです。
しかし、実物の馬を奉納できない人たちもいました。
その人たちは、板に馬の絵を描いて奉納したそうです。神事も、同じ様に簡略化されていきました。
そのうち、これに願い事を書く様になり、今の絵馬になったと言われています。だから「絵馬」と漢字で書くんですね。
大前神社の絵馬は、馬は馬でも鉄の馬ですね。以前は、氏名や住所を詳しく書かないのが主流だったそうです。願いや決意を書き入れて奉納しましょう。
僕は、何か願いを叶えたくて神社を巡っているわけじゃありません。人に出会いたくて、見た事ない景色を見たくて疾走っています。
その決意を絵馬に書く事ができて、気持ちを新たにする、とてもいい機会になったと思います。それが鉄の馬の絵ときてるから、これもまた縁を感じざるを得ません。
みなさんが足尾山神社を参拝した際、僕の絵馬がぶら下がっているか探して見てくださいね。
絵馬に書いた決意を、目に焼き付けて疾走り出す… 神社拝走の旅は続く!
文:佐々木優太/写真:関野 温
※この記事は月刊オートバイ2018年9月号(別冊付録 RIDE)で掲載したものを加筆修正しております。