キックスタートから始まるSR400のツーリング
SR400にキャンプ道具を満載し、跨ると、10年以上前の記憶がとめどなくあふれてきた。
僕は19歳から24歳までの約5年間、1996年式のSR400とともにバイクライフを送っていた。
北は北海道、南は鹿児島。主に学生時代の長い休みを利用して、全国を駆け回った思い出の一台だ。
キャンプ道具を積んだ状態では、直立した姿勢を強いられる。ライダーの身動きは制限され、跨った状態での取り回しも、空荷状態と比べるとおそろしく重い。
ただ、それでもSR400で走行中に転倒したこともなければ、立ちゴケすらなかったと思う。
デコンプレバーを左手人差し指にかけ、一度圧を抜く。デコンプは使うが、エンジン右側上部に備わっているキックインジケーターは見ない。それがSR元オーナーの矜持だ。
跨った瞬間、身体が覚えていた動きをとる。
キック一発、エンジンが始動……とはいかなかった。
何度か同じ方法で試みるもかからない。自分がここだと思うポイントを足で合わせ、誰にも見られていないことを確認し、キックインジケーターをチラッと覗く。
思いっきりズレていた……。かっこよく約8年ぶりのSR400ツーリングを始めようと思ったが台無しだ。
……ここからは、編集部員西野、いつもの緩ーい感じで、進めていきます!
キックインジケーターをガン見して、一番シルバーが濃くなるところに合わせて、キック! すると、懐かしいエンジン音、そして鼓動感、この瞬間、SR400は変わっていないと気づきます。
なぜ、SR経験者がすぐにエンジンをかけられなかったのか。(イイワケ)
SR400のキックは、年式や個体別でそれぞれ微妙なクセがあると思っています。
以前も人のSRでは、簡単にかけられないことがありました。逆にめちゃくちゃかけやすい個体だと思っていた僕のかつて愛車を、全然かけられないSR乗りもいました。
キックインジケーターを見ないで、毎回一発でかけられるというのは、オーナーが愛車と触れ合ってきたキャリアの証ともいえそうです。
始動させるところから、メカではなく機械、人の手で作られた人間味あふれるオートバイだということを感じさせてくれる。
それが最新機種にはない、伝統の400cc・SR400の大きな特徴でしょう。
ここで、オートバイ女子部・梅本まどかさんのキックスタートをご覧ください。
エンジンがかかった瞬間の梅本さん、嬉しそうでしたね。始動させるだけで、こんなにハッピーになれるバイク、2020年ではSR400だけです。
ヤマハ SR400 の積載能力
さて、キャンプツーリングには欠かせない積載性について解説します。
僕がSR400を買った2007年当時、まわりのよく走っているバイクと比べて、SR400の積載能力は高くもなければ低くもない、といった中間的なイメージでした。
当時はビッグスクーターブームの終わり際。スクーターが荷物を積めるのはもちろん、ほとんどのミッション車にも使いやすい荷掛フックが備わっていました。
しかしいま見ると、いつの間にかSR400の積載性はかなり高い部類となっています。
大型シートバッグをノーマル状態で積めて、サイドバッグも使いやすい。そして荷掛フックの位置と形状は、昔から変わっていません。
2月に入ってから出かけた冬キャンプツーリングでは、容量最大75Lのシートバッグと片側20Lのサイドバッグを装着しました。
SR400のような細身のバイクは、横に張り出した大きなシートバッグを積んだ時、少し不安定になります。そして、シートバッグばかり悪目立ちしてしまうことも。
しかし、サイドバッグを装着することで、安定感がグッとアップ。スタイリングは、空荷の美しさとはかけ離れますが、一気に「旅バイク」感が出ますよ。
僕がキャンプツーリングで持っていく標準的な装備はこちらです。
【キャンプツーリング 持ち物リスト 春~秋Ver.】
★キャンプで必ず持っていきたいもの
・テント
・テントのポール
・ペグ
・グランドシート
・シュラフ(寝袋)
・エアーマット
・ストーブ(煮炊き用の火器)
・ランタン
・ヘッドライト
・食器類(鍋・フライパン・シェラカップ)
・ナイフやハサミ、マルチツール
・タオル
★キャンプであると便利なアイテム
・椅子
・テーブル
・焚き火台
・ライター・チャッカマン
・着火剤
・軍手
・うちわ
・まな板
・調味料
・水筒と水袋
・保冷バッグ
・トイレットペーパー
・キッチンペーパー
・ウエットティッシュ
・デオドラントシート
・洗面用具(歯磨きセット・ひげそりなど)
・虫よけスプレー
・かゆみ止め
・ばんそうこうなど救急キット
・シュラフカバー
・サンダル
・折り畳み傘
・エコバッグ
・ロープ
・ストレッチコード
★電子機器類
・モバイルバッテリー
・スマホの充電ケーブル
・カメラ
・ラジオ
★衣類
・着替え(下着と靴下、Tシャツなど)
・防寒着
・レインスーツ
・バッグのレインカバー
・(メガネ)
・(コンタクトレンズ用品)
★その他、ツーリング時にあると便利なもの
・地図
・筆記用具
・ボディバッグ
(※お財布やスマホ、免許証などマストのものは記しておりません。お忘れなく~!)
これらはキャンピングシートバッグ2を拡張しない状態の容量59Lで収まります。
今回のキャンプは冬。そのため、冬用シュラフとシュラフカバーに、防寒着と使い捨てカイロをプラス。
さらに複数人でのキャンプだったため、大きな鍋、焚き火台も2個持っていきました。(直火OKだったので、使わなかったのですが)
フルパッキングだと乗りにくくなる?
このフルパッキング状態で、まず困るのが自分の乗るスペースの確保です。普段、空荷でずっと走っていて「キャンプを試しにやってみたい」と思った人が最初にぶつかる壁でしょう。
SR400の場合は、一体型シートのため、荷物が大きくなるほど、ライダーの乗るスペースが削られます。
これは慣れるしかないかと。もしくは荷物の量を最小限にする。
北海道を10日や1カ月旅するライダーから見れば、この量はいたって標準的。もっと積みにくいバイクで、これ以上の積載をしている人もザラです。
YAMAHA SR400 フルパッキング状態での走行性能
走り出すと特有の振動が昔と何にも変わっていないことに驚きました。
まるで天然のグリップヒーターやあ~、加速するとミラーが揺れまくって後方の景色がにじんでる~
一瞬で10代から20代前半にかえった気持ちです。
と同時に、自分のライディングのクセは、SR400により生まれたものだと気づきました。よく「エンブレ強すぎない?」と言われるのですが、SR400は普通に走っていてもエンジンブレーキが強烈にかかる。
それがミッション車の乗り方だと思い、いまだにエンブレを強めにかけるクセが残ってしまっています。
直立姿勢で、コーナーをリーンアウトぎみに曲がろうとするのも、フルパッキングしたSR400での走行経験の長さから来ているのかも。
身体を積極的に動かすリーンインは、この状態ではできません。コーナーでタイヤが滑った時など身体が起きている方が立て直しやすいんです。
また、リーンアウトだとブラインドコーナーの先をより早く見られます。特に1車線ほどしかない県道や舗装林道では、基本リーンアウトで走っています。
今回SR400に久しぶりに乗って、あらためて思いました。
SR400だと、飛ばそうという気すら起きない。
転ぶ気がまったくしない。
シート高は790mm。身長175cmの僕はヒザが軽く曲がった状態で両足ベタつき。跨ったまま前進・後退の取り回しも可能。
走り出しは、SR400特有の鼓動感と力強さを発揮しますが、瞬発力は低く、加速力も250ccのスポーツバイクに負けます。
そのかわり「これだけ開ければ、これだけ進む」というのが非常に分かりやすい。だから、峠でコーナーに突っ込んでしまいそうになる怖い思いもしませんでした。
SR400が好きな人なら分かると思います。
このバイクは、速度とか数値じゃないんだ、と。
1978年の初期型から、スタイリングはもちろん、基本設計はほとんど変わっていません。
長い歴史の中で、キャブレターからフューエルインジェクションになり、現行モデルでは最新の排ガス規制をクリアするためにキャニスターが備わっています。
変わったのは排ガス規制。作り手側発信の大きなモデルチェンジは40年以上行なわれていない、まさに生けるレジェンドです。
1点、大きな変更箇所として、フロントブレーキがあげられます。
1978年の初期型はディスクブレーキを採用していました。それが80年代途中から90年代にドラム化。そして2000年代からいまにいたるまで再びディスクブレーキに戻されています。
僕はドラムブレーキ時代のSR400に乗っていました。中古車だったこともありますが、かつての記憶と比べると、現行モデルはブレーキがよく利きます。
よりいっそう、事故を起こす気がしませんね。
SR400のツーリングでは、景色をめいっぱい楽しめます。
視界が広く、峠に入ってもフルパッキングだと攻める気すら起きないので、のんびりと旅先の風や香り、景色を満喫できるでしょう。
でも常に「バイクに乗っている」「SR400に乗っている」ということは、エンジンの鼓動が毎秒伝えてきます。
学生時代に訪れた北海道や九州、パッと思い出してみると、SR400で走りながら眺めた景色ばかりが浮かんできます。
ヤマハ SR400 高速道路の巡航性能
今回、東京湾アクアラインの右車線を何の問題もなく、前をゆくクルマについていけました。
バイクに慣れている人であれば、SR400で高速を走るのが怖いと感じることはないでしょう。クラシカルなバイクといえど、400ccですからね。
時速80kmは、5速3,700~3,800回転で発生。その後の余裕もたっぷりあります。
ただ、以前の愛車より、少し力が弱く感じました。あらためて調べてみると、90年代のキャブレター車と比べると、最高出力は3PSほど落ちていました。
しかし、それがストレスかといえば、そうでもない。ノーマル状態のSR400にパワーや速さを求めるのはお門違いです。
速いバイクはほかにいくらでもある。だけど、空冷ビッグシングル・40年以上歴史があるのはSR400だけ。
信号待ちでどんなバイクが横に並んでも、引け目を感じることはありません。
僕は唯一、SR500を見かけたときだけ、おおおおお~兄貴だあ! と興奮していました(笑)。
SR400 フルパッキング状態での実燃費
今回のキャンプツーリングは1泊2日で計285kmを走りました。
その間に給油は3回。シチュエーション別で燃費を図ってみたかったのです。
僕の体重は75kg。ウエアと荷物を合わせて100kg弱ってところでしょう。
実燃費は、高速道路主体で約30km/L。信号の少ない下道で約27km/L。街中で約24km/Lでした。
この結果は、僕が乗っていた昔のSR400とほとんど変わりません。もちろんガソリンはレギュラー、相変わらず経済的ですね。
燃料タンク容量は12L。12L×24kmと考えても航続可能距離は288km。昔もツーリング中は250kmを超えると怖い、と思って給油していました。
北海道や信州の山の中など、どこで給油できるか分からない場合は、200km前後でガソリンスタンド探していたのを覚えています。
メーターはずっとアナログ式で、トリップがひとつ付いているのみ。
しかし! 現行モデルには盗難を抑止するイモビライザーを搭載。エンジンを切ると、スピードメーターの下に備わっている鍵マークのランプが赤く点滅します。
ちなみに僕のかつての愛車96年式SR400には、燃料残量警告灯も備わっていませんでした。さりげなく進化していますね。
1泊2日の冬キャンプツーリングを終えて
今回のキャンプツーリングは、東京から湘南を経由して、東京湾フェリーで房総へ。
途中、岬カフェでは、モトグッツィのV7ミラノに乗るオーナーさんとしばしバイクの話で盛り上がりました。
「空冷っていいですよね」「SRもグッツィも何だか人の手で造られたっていう温かみがあるよね」とクラシカルな構造のバイクに乗る者同士、楽しく空冷談義。
キャンプ場は千葉県勝浦市「勝浦つるんつるん温泉キャンプ場」。月刊オートバイ&webオートバイの編集スタッフ3人でのキャンプでした。
月刊オートバイ松本副編集長の愛車は、空冷時代のBMW R1200GS。
読者ページやタンデムチェックを担当している木川田ステラさんの愛車はSR400と同じくヤマハの空冷400・ドラッグスター400クラシック。
「空冷っていいよね」「冬の方が元気に感じるよねえ」なんてここでも空冷談義。
SR400は2020年で、発売から42年が経ちました。パワー競争や流行に流されず、ここまでやってきました。
かつて愛車がSR400だったとき、よく声をかけられました。また周りに乗っている人、前に乗っていたという人も多かった。
メンテナンスや、カスタムのポイント、それこそ積載術、走り方など、先人たちが蓄積した知識と経験、情報がもっとも手に入りやすいバイクです。
もし、いま普通二輪免許の取得を考えている人や、初めてのバイクを選んでいる人がこの記事を読んでくださっていたら、個人的に強く勧めたい。
SR400に乗っていれば、きっと、周りがいろいろ助けてくれます。勝手にバイク仲間ができます。
SR400経験者である僕も「初めてのミッション車にSR400を選んでよかった」と、心から思っています。
文・写真:西野鉄兵
YAMAHA SR400 (2018年11月22日発売) 主なスペックと価格
全長×全幅×全高 | 2085×750×1100mm |
ホイールベース | 1410mm |
最低地上高 | 130mm |
シート高 | 790mm |
車両重量 | 175kg |
エンジン形式 | 空冷4ストSOHC2バルブ単気筒 |
総排気量 | 399cc |
ボア×ストローク | 87.0×67.2mm |
圧縮比 | 8.5 |
最高出力 | 18kW(24PS)/6500rpm |
最大トルク | 28N・m(2.9kgf・m)/3000rpm |
燃料タンク容量 | 12L |
変速機形式 | 5速リターン |
キャスター角 | 27.40゜ |
トレール量 | 111mm |
タイヤサイズ(前・後) | 90/100-18M/C 54S(チューブタイプ)・110/90-18M/C 61S(チューブタイプ) |
ブレーキ形式(前・後) | シングルディスク・ドラム |
メーカー希望小売価格(消費税10%込) | 58万3000円 |