Text:Nobuya Yoshimura Photos:Teruyuki Hirano
990cc最終型のYZR-M1を徹底解剖
YAMAHA YZR-M1(2006)


フォークスパンが広く、メーターが大きいため、フロントカウルとスクリーンが小さく見えるコクピットからの眺め。スクリーン上縁は、タンクカバー前部中央の凹みにアゴを入れた状態のヘルメット頂部よりも、わずかに低い。カーボン+ケブラー強化樹脂製のカウルは、縁の部分をすべて内側に折り込んで強度/剛性を稼ぐ。ハンドルバーは、長さ/高さ、垂れ角/引き角度とも、左右同一に見える。

フロントカウル内で大きな面積を占めるマルチファンクションメーターの液晶パネル。左上のアールに沿ってタコメーターがあり、その下の6桁の数字はエンジン回転数/車速のいずれかを選択して表示し、右側の大きな3桁の数字はギアポジション/車速(マイルまたは 毎時)/ラップタイムのいずれかを選択して表示、さらに下側にある2組の5桁表示部には、ガソリン残量/残り周回数/ベストラップタイム/最高速度などを選択して表示する。ピットサイン以上の情報が走りながら確認できるのだ。

ロッシのニックネームのひとつ、“DOCTOR”ステッカーを張ったフロントカウル。スクリーンにはイタリアの車検ステッカーが張られており、物品ではなく車両扱いにして通関を容易にしている。


通常のフューエルタンクスペースの後半は実際のタンクであり、ニーグリップ部の深い彫り込みが特徴的。プレスしたアルミ板を溶接で組み立てている。

タンク前方のスペースは吸気ボックスや電装系パーツを収納するカバーであり、小さな通風孔が並ぶ。

サイドカウルとアンダーカウルには、ラジエターを通過した空気の排出口/クラッチ冷却用の導風口/エンジン下部の空気の排出口などが並んでいる。

テールカウルは、部分的にアルミハニカムで補強されたカーボン+ケブラー強化樹脂製のテールカウルが強度を受け持ち、シートを上から取り付ける。

裏面は、フラッシュサーフェス化を徹底している。

テールカウル上面には凹みと穴があり、後方撮影用TVカメラ搭載時は、内部にカメラをマウント。

レギュレーションに規定された最低重量はTVカメラ込みの数値であるため、カメラを積まないときには同重量のウェイト(アルミブロック)を搭載する。

フロントブレーキのマスターシリンダーはブレンボのラジアルポンプ(マークはφ19×18)。撮影時はレバー位置調整用のワイアが外されていたが、本来はメーター下を通って左側グリップ基部に向かう。開け/閉じ各1本のスロットルワイアには、途中にクイックリリース機構(クリップで留めた縦割りの筒の中に、タイコをはめ込む中子がある)を持つ。

クラッチマスターシリンダーもブレーキと同じくブレンボ製で、こちらのサイズはφ16×19である。

ステアリングダンパーは、前後ショックユニットと同じくオーリンズ製。マグネシウム削り出しのボディとチタンコートされたロッドを組み合わせる。

ステップブラケットには、鋭利な突起のステップバー/短めのブレーキペダル/リザーバータンク一体型のマスターシリンダー/ドライカーボンのヒールガードがマウントされ、これら全体をプレートで囲み、クラッチやマフラーの熱を遮断している。

シフトペダルのピボットがフレーム側にあるため、左側ステップまわりは簡素な造り。先端可倒式のシフトペダルは、高い位置にあるシフトアームと長いロッドで結ばれる。ロッドの途中にある歪みゲージ(圧力の増減によって電気抵抗が変化する)は、シフトアップ動作を検出し、クラッチを切らず、スロットルも戻さずにスムーズなシフトアップを可能にするメカニズム(オートシフターという不適当な呼び方をされることが多い)用のセンサーである。

シート下に大きく張り出して容量(22L)を稼ぐタンクの底部にはポンプがマウントされている。


左側グリップ基部のスイッチボックスは、誤操作防止のため(ボタンの位置を離すため)、非常に大きく造られているのが特徴。LCと書かれた黄色のボタンはローンチコントロール用で、これを押すとエンジン制御がスタート専用モードに切り替わり、発進加速に最適のエンジン特性が得られる。下のMAPと書かれたグレーのボタンは、あらかじめセットした何種類かのエンジン制御マップの中から、コースやマシーンの状態に合ったものを選ぶためのもの。

右側グリップ基部にあるPITと書かれた緑のボタンは、ピットレーン走行時のスピードリミッターのスイッチ。プラクティス中のピットイン/ピットアウト時に制限速度を超えると、決勝結果に対してペナルティを課されるため、それを防止するのが狙い。その下の赤いボタンは通常のエンジン停止用である。

オーリンズの倒立型・フルアジャスタブルフロントフォーク/マルケジーニのマグネシウム鍛造ホイール/ミシュランのレーシングラジアルタイヤ/ブレンボのφ320㎜カーボンコンポジットディスク/ブレンボのモノブロック・ラジアルマウントキャリパーで構成されたフロントまわり。必要最小限の厚さを残して肉抜きされたアクスルの薄さに注目。左側にも車速センサー(ホイールの回転を検出)があるが、なぜ両側に必要なのかは不明。キャリパーのメインテナンスを容易にするため、ブレーキホースの途中にクイックジョイントを設けている。

リアブレーキキャリパーはブレンボの対向2ピストン型で、チェーンプラーを利用したリジッドマウント。フローティングタイプのステンレスディスクはφ220㎜である。

他社も含め、モトGPマシーンのチェーン引き調整幅は市販車よりも大きく60程度もある。しかし、いつ見てもアクスルは後端近くにあり、スイングアーム長を最大にしているようだ。

外装パーツ集合の図。タンク以外はすべて強化樹脂製だが、場所によってファイバーを使い分け、必要な強度と剛性を確保。アルミのフューエルタンクは、底部のポンプ込みで3.5㎏少々の軽さである。

上から見ると、左右のメインフレームの驚くべき薄さが判明する。縦方向の力はしっかりと受け止めてトラクションにつなげるが、横方向の力は適度に逃がして操安性への悪影響を排除しようという設計思想の表れ。縦剛性/捻り剛性の微増に対して横剛性を20%も落とした2005年型を踏襲する点である。
YAMAHA YZR-M1(2006)<No.04>へ続く
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