ホンダ「BENLY e:」(ベンリィ イー)シリーズ 解説&試乗インプレ(太田安治)
短距離向けではあるが個人用にもOKの完成度
ガソリン車からEVへという流れにより、国内外の二輪メーカーはこぞって電動モデルを開発中。だが現状では航続距離が短く、ツーリングを楽しむような使い方は難しい。当面は近距離移動前提のモデルでノウハウを蓄積し、充電スタンドの拡充に合わせて中〜大型モデルが投入されることだろう。
ホンダは1994年に「CUV ES」、2010年に「EV-neo」、2017年に「PCX ELECTRIC」といった電動スクーターを展開してきたが、2020年4月から市場投入されたのが「ベンリィe:」。ただし、社会的責任の観点からバッテリー回収に協力できる法人のみへの販売で、既存のベンリィと同じく新聞やピザ、宅配寿司といった配達業務での利用を想定している。
一見するとベンリィそのものだが、車体右側にマフラーがないのでEV車であることが判る。ベンリィe:には原付一種相当のⅠ(ワン)と、原付二種相当のⅡ(ツー)があり、車体は完全に共通で価格も同じ。違いはモーターの出力だけだ。
これまで多くのEVスクーターに試乗してきたが、ゼロ発進と加速の滑らかさは文句なしにナンバーワン。スロットルを開いてから動き出すまでの僅かなタイムラグ、動き始めのパワーが緻密に制御されていて、アクセルを開けた瞬間にビュン! と唐突に走り出すことはない。
ベンリィとは違って極低速でもエンジンブレーキ効果が得られ、歩くような速度でもフラつきにくい。配達業務用に割り切っているとはいえ、実に見事な設定だ。
スロットルを全開にするとフラットに速度が上昇し、Ⅰで50㎞/h、Ⅱで60㎞/h程度まで伸びていく。ホンダのデータによると配達業務では30㎞/h以下が常用速度とのことだから、これで充分。全開加速や登り坂では明らかにⅡが力強いが、Iでもパワー不足による危うさは感じなかった。
EV化による重量増は約10㎏。さすがに押し歩きは重いが、走り出せば気にならず、安定感あるハンドリングが好ましい。今回の試乗会場は教習所だったが、S字部分を使って強引に切り返してみても、車体の剛性不足に起因する不安な挙動はない。これなら荷物を満載してもビクともしないだろう。
法人向けだが、通勤・通学、買い物にも向いている。ガソリン車よりメンテナンスの手間も大幅に減らせ、匂いも音もない。価格次第では個人向けとして普及する可能性もありそうだ。
文:太田安治/写真:南 孝幸