過去があるから現在はある。いま、この世に存在しているモデルたちは名車の魂を脈々と受け継いで、成り立っている。古いオートバイを、忘れてはならない。いま乗れる、奇跡の絶版モデルがある。

古さを感じるより味がある69年の頂点モデル

登場しただけで世界中にセンセーションを巻き起こしたCB750フォアは動力性能でも世界の新しい指針となっていった。当時はまだ最高速度を数字で公表してもよかったため、発表されたナナハンの性能は、道路状況による推定と前置きされながらの「最高速度200㎞/h、ゼロヨン12秒4」。もちろん、トライアンフもノートンも、ハーレーもひれ伏す世界最速データだった。

画像: 古さを感じるより味がある69年の頂点モデル

「始動してまず驚かされるのはエンジンの吹き上がりの早さであろう。わずかなアクセルの開きで、タコメーターの針は一気に5000あたりまで跳ね上がり、初めてアクセルを操作した人は、あわてて手を離すほどである。回転の上がりは1500からレッドにいたるまで直線的な伸びを示し、柔軟性に富みかつスムーズな粘りを発揮する」

「パワー、操縦性、電装関係とも文句なしの一級品。どの部分もすべてが印象に残るほどすばらしい車であるが、やはり中でも特徴的なのは、精密な4気筒から生じるパワフルな柔軟性と静寂さであり、それが魅力の80%を占めるのではないだろうか」(月刊オートバイ1969年10月号より抜粋。当時のテストライダー横内一馬氏)

そして、当時の世界最速に、21世紀の現在の目で乗ってみる。4気筒なんていっても誰も驚かない、水冷もアルミフレームも、リッター150PSも当たり前の現代である。

撮影した車両(赤)は、モト来夢オーナー織茂さんの個人所有車で、セルを押すとクランク2~3回転であっけなく4気筒が目覚め、暖気が済むとピタリとアイドリング回転が安定するほど完璧な整備がなされている69年型K0だ。

アクセルを開けると、ズオッズオッとクランクの回転慣性を感じさせながらエンジンが吹け上がり「モーターのようにつまらない」と揶揄されることも少なくない4気筒は、まるで生き物のように手応えを残してピストンを上下させる。

発進はきわめてスムーズ。特別な手順も必要なくスルスルと前に進み、当時は巨体といわれたボディを簡単にスピードに乗せるのだ。現在の目で乗れば、さすがに大パワーとはいえないが、必要十分なトルクがあり、ネバリのあるパワーフィーリングでどんどんスピードを乗せてくれる。

オーナーの許しを得て6000回転、7000回転と引っ張ると、CB750フォアは21世紀の今でも通用するようなシャープな反応を見せるのだ。

世界最速の白バイとして、警視庁にソッコー導入される

画像1: 世界最速の白バイとして、警視庁にソッコー導入される

1969年8月に国内発売となり、“世界最高級の超高性能オートバイ”として、爆発的人気を誇ったCB750フォア。最高速度200km/h、0→400m加速12.4秒という、ズバ抜けたハイパフォーマンスと圧倒的存在感を放ち、翌70年1月、警視庁管内の交通機動隊に白バイとして計200台が採用された。

この国産初の4気筒750ccモデルは、白バイ=ナナハンというイメージを決定づけ、路上を征する存在として交通警察の取締りにおいてトップに君臨する。

画像2: 世界最速の白バイとして、警視庁にソッコー導入される

当時は班長クラスしかCB750の白バイに乗務出来ず、4気筒ナナハンの威風堂々としたスタイルと重厚なサウンドは、白バイ隊員たちの「憧れ」だったという。

画像: 左の写真は1970年1月20日、東京は桜田門の警視庁前で秦野警視総監出席の元に行われた、新鋭白バイ100台による試走式の模様。当時の白バイ乗りの制服が時代を感じさせる。CB750フォアは主に幹線道路に配置された。

左の写真は1970年1月20日、東京は桜田門の警視庁前で秦野警視総監出席の元に行われた、新鋭白バイ100台による試走式の模様。当時の白バイ乗りの制服が時代を感じさせる。CB750フォアは主に幹線道路に配置された。

ホンダ「CB750Four (K0)」主なスペックと発売当時の価格

SPECIFICATION
●エンジン形式:空冷4ストローク並列4気筒OHC2バルブ
●内径×行程(総排気量):61.0×63.0㎜(736cc)
●最高出力:67PS/8000rpm
●最大トルク:6.1kg-m/7000rpm 
●ミッション:5速リターン
●ブレーキ形式前・後:ディスク・ドラム
●全長×全幅×全高:2160×885×1120㎜
●タイヤ前・後:3.25-19・4.00-18
●燃料タンク容量:19ℓ
●ホイールベース:1455㎜
●乾燥重量:235kg
●発売当時価格:38万5000円

ホンダ「CB750Four (K0)」各部装備・ディテール解説

画像: MVアグスタ、アリエルなどの高価な少量生産車では4気筒エンジンが存在していたが、量産市販車としては初めて。

MVアグスタ、アリエルなどの高価な少量生産車では4気筒エンジンが存在していたが、量産市販車としては初めて。

画像: K0最初期ではクランクケースが大量生産には不向きの砂型キャスト製。

K0最初期ではクランクケースが大量生産には不向きの砂型キャスト製。

画像: K0だけが240㎞/hスケールのスピードメーター装着。タコメーターもK1以降は8000rpmからレッドとなるが、K0では8500rpmから。

K0だけが240㎞/hスケールのスピードメーター装着。タコメーターもK1以降は8000rpmからレッドとなるが、K0では8500rpmから。

画像: K0はシート後端がピコンと立ち上がるのが特徴。K1以降、シートテールはフラットな形状になった。

K0はシート後端がピコンと立ち上がるのが特徴。K1以降、シートテールはフラットな形状になった。

画像: K0の特徴のひとつである一本引きのアクセルワイヤー。ディスクブレーキはトキコ製ユニットだ。

K0の特徴のひとつである一本引きのアクセルワイヤー。ディスクブレーキはトキコ製ユニットだ。

画像: ディスクブレーキとなったのは、本田宗一郎氏の「ディスクに決まってんだろ」の鶴の一声だった。

ディスクブレーキとなったのは、本田宗一郎氏の「ディスクに決まってんだろ」の鶴の一声だった。

撮影/長野浩之 文/中村浩史

※この記事は月刊オートバイ2011年8月号別冊付録を加筆、修正、写真変更などの再編集を施しており、一部に当時の記述をそのまま生かしてある部分があります。

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