ヤマハ「テネレ700」試乗インプレ・車両解説(宮崎敬一郎)
オフローダーとしてもツアラーとしても魅力的
高速道路も街中も、多少荒れた林道もこのテネレ700で走ってみた。そして頭の中に最初に浮かんだコトバは「おぉ、まるで大きなセローじゃないか!」だった。
セローは強力なパワーこそないものの、どんな荒野でも踏破するのに十分な力があり、しなやかに動く足回りと小柄な車体は誰にでも扱いやすく、どこでも使えるという魅力が光る、35年も愛されたモデルだ。
そんなセローとこのテネレ700がオーバーラップして見えたのは「誰にでも扱いやすく、どこでも使える」使い勝手の良さからだ。テネレはオフロード指向の強いミドルアドベンチャースポーツ。さすがに小柄なライダーでも簡単に…とは言えないが、そのサイズに慣れさえすればすばらしく扱いやすい。
まずエンジン。これはMT‐07と同じ688㏄のCP2ユニットを積み、72馬力を発揮する。パワーモード切り換えやトラコンなどの装備は一切なく、あるのはABSだけ。でも、扱いにくさはまったくない。低中回転域からトルキーでレスポンスは滑らか。わざと滑らすような操作も意のままに行える。
ビッグオフローダーと言うだけで、大柄で屈強なライダーしか扱えないシロモノ…などと想像するかもしれない。しかし、ロックのガレ場こそ極低速でキックバックを抑える腕力が必要になるものの、ふつうに流すペースであれば抜群の走破性を発揮する。
ホイールトラベル200mm越えの前後サスは威力絶大。純粋なオフローダーとして見ると、少し硬めのバネをベースにセットアップしてあるように感じるが、オンオフともに乗り心地はいいし、握りこぶし大のガレ石や20センチほどの段差をけっこうな勢いで乗り越えても弾かれない。車体から伝わる衝撃に硬さがないので、走っていて気楽だ。
オフロードの走破性は「オフも走れます」ではなく、スキルのあるライダーでなくともなじみやすく「オフを楽しもう」とバイクが誘いかけてくる感じ。この走破性がもたらす信頼感と身軽さは「ビッグオフは手強い」というイメージを払拭してしまうだろう。スポーティな機動だってできるし、そのポテンシャルはアドベンチャーというより本格オフロードモデルなみ。これも魅力のひとつだ。
さらに、このテネレ700はツアラーとしての魅力も山盛りだ。エンジンはオンでも扱いやすく快活で静か。峠道も元気に走るし、高速道路での直進安定性はツーリングスポーツなみ。大柄な車体だが、追い越し加速も強力。振動にいたっては、CP2エンジンを搭載するシリーズでもっとも少ない。乗り心地もよく、オンでの長距離移動はリッタークラスのツアラー以上の快適さだと思う。
扱いやすくて、使いこなせばオフでの優れた走破性と意のままになるハンドリングを楽しめる。行き着いた先が過酷な道でもワクワクしながら楽しめるワークブーツのような1台。それがテネレ700だ。
ヤマハ「テネレ700」主なスペックと価格
全長×全幅×全高 | 2370×905×1455mm |
ホイールベース | 1595mm |
最低地上高 | 240mm |
シート高 | 875mm |
車両重量 | 205kg |
エンジン形式 | 水冷4ストDOHC4バルブ並列2気筒 |
総排気量 | 688cc |
ボア×ストローク | 80.0×68.5mm |
圧縮比 | 11.5 |
最高出力 | 53kW(72PS)/9000rpm |
最大トルク | 67N・m(6.8kgf・m)/6500rpm |
燃料タンク容量 | 16L(無鉛レギュラーガソリン指定) |
変速機形式 | 6速リターン |
キャスター角 | 27゜ |
トレール量 | 105mm |
タイヤサイズ(前・後) | 90/90-21M/C 54V・150/70 R18M/C 70V(前後チューブタイプ) |
ブレーキ形式(前・後) | ダブルディスク・シングルディスク |
メーカー希望小売価格 | 126万5000円(消費税10%込) |