ホンダ「CRF1100L アフリカツイン」試乗インプレ(濱矢文夫)
ベーシックモデルに乗ることで素性の良さを知る!
アフリカツインにはスタンダードバージョンと、より大容量燃料タンク、高いスクリーン、リアキャリア、コーナーリングランプ、大きなスキッドプレートなどが装備されたアドベンチャースポーツの2種類あって、その両方に一般的なマニュアルとオートマチック走行も可能なDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)が用意されている。さらにアドベンチャースポーツバージョンには普通のサスペンションに加え電子制御サスペンションの〝ES〟があるから、全部で6種類から選べる。
さらに少し前まで、期間限定でサスペンションストロークを長くした〝S〟もあった。使いたい用途や欲しいアフリカツイン像があるなら選択肢が広い反面、ちょっとややこしい。だからどんな仕様のモデルに乗っての感想なのかはっきりさせておく必要がある。
今回走らせたのは、スタンダードタイプのマニュアルトランスミッションモデルだ。消費税込み161万7000円とシリーズでも最も安価で、226kgと最も軽いベーシックモデルとなる。
水冷パラツインエンジンはCRF1000Lの998ccからCRF1100Lはストロークを伸ばして84ccプラスした1082ccになった。スペック的には最高出力で7PS、最大トルクも若干増えただけなのに走らせると印象はかなり違う。
細部を見直して吸気効率を上げただけあって明らかに1100になってパワフルになった。特に低回転からパルス感をともなってグイグイと押し出していくのが気持ちいい。
スロットルを開けていくとよりレスポンスが良くなってトルクの谷もなくスムーズに高回転域まで吹けあがる。横に並べて乗り比べなくても、間違いなく力強さが増して加速が良くなったと言い切れる変化。これだけでも単純に速くなったと感じさせるものだ。このマニュアルトランスミッション仕様でエンジン単体重量を2.5㎏も軽量化したそうだ。
好印象はエンジンだけにとどまらず。1100になってフレームが新しくなっている。メインフレーム部分は以前からのレイアウトを踏襲するが、剛性バランスを変更して、前後方向の入力に対して強くした。モトクロッサーCRF450R譲りの新開発アルミスイングアームなど足回りも刷新。これによって、速度を上げて走っている時の安定感が増して、車体全体がシャキッとしっかりとした。
コーナーリング時の、強い減速からリーンして旋回、脱出にむけてスロットルを開けていく一連の動きが、確実に良くなって、スピードを上げて荷重をかけて曲がるときに若干あった落ち着かない動きがおさまり、ギャップなどがあってもサスペンションがしなやかに対応してくれる。純正タイヤにちゃんと合わせこんでワインディングもさらに走りやすくなった。スポーツ度が増したという表現をしても差し支えないほど。
車体バンク角や、車体減速度、全後輪のスリップ、ウイリーや急ブレーキ時のリアタイヤの浮き上がりなどを検知して、車体がどういう状態なのかを把握できるIMU(慣性センサー)を使って、コーナーリング時のブレーキや、ホンダセレクタブルトルクコントロールのスリップ抑制をしている。路面が濡れている場合などグリップ状況が悪くなるほど介入してくるのが分かる。
オフロード走行に慣れた人が、車体の動きを積極的に支配して走りたい時はトルクコントロールの介入を小さくするといいだろう。
ライディングモードが、ツアー/アーバン/グラベル/オフロードと自分の好みに各種設定ができるユーザーモード(2つ)あるので、これを切り替えるだけでエンジン特性は明らかに変化し、走りの状況に合わせたものになる。
ABSの効きもそのライディングモードによって変わる。グラベルとオフロードって何が違うんだと思うモード分けだけど、実際にダートで乗ってみると、グラベルがハイスピードなフラットなダート向けで、低回転域が穏やかになって急にテールが出ない設定。オフロードは低回転でトルクのピックアップが良くなり、凸凹を乗り越えていくために前の荷重を抜いたりアクションがやりやすいから、より荒れ地向けということだろう。オフロードモードの時はリアのABSをオフにできるからオフロード好きにとってはありがたい。
このベーシックモデルはアドベンチャースポーツと違いスクリーンが小さく低いから高速走行時は比較的風が上半身に当たりやすい、ロングツーリングでの快適性をもっと良くしたいなら、オプションでハイウインドスクリーンが用意されているので交換をおすすめする。クルーズコントロール、グリップヒーター、ETCを標準装備しているのは良い。
総括すると、街中、高速道路、ワインディングと、どのシチュエーションでも前作を超える走りになったということ。
国内では2016年に初代1000が発売されて、細かなアップデートは受けてきたけれど、同排気量クラスのライバルも進化をしてきて、やや見劣りする部分もあった。この1100は装備も含めてそれをいっきに底上げして魅力的になったと感じた。
フロントに21インチという大径タイヤを履いていることから、オフロード走行の性能についてクローズアップされることが多いけれど、それ以外でも完成度は高いのである。