文:二輪車新聞 編集部
※この記事は、『二輪車新聞』の公式ウェブサイトで2020年10月9日に公開されたものを転載しております。
業界の要望で市場参入
同社で用品事業を統括する元松常務は振り返る。
「参入のきっかけは2010年当時、二輪車用車載器を供給するメーカーは1社だけしかなく、価格や供給体制に二輪車販売店や用品店から不満があり、そうした販売店や業界団体から弊社に参入の要望があったため、それに応えるものでした」
その頃は四輪向けの車載器では多くのメーカーが競い合うようにラインアップしていたが、二輪車向けではわずか1社。そんな中「規模が小さいし、大手メーカーも二の足を踏むような市場でもチャレンジをしよう」と、参入を決意したことを話す。
参入後3年間は塗炭の苦しみ
自社の商社部門で四輪用車載器を手掛けていたこともあり、性能面では問題なく販売でも上手くいくと思われたのだが、その後数年間は苦労の連続だったという──。
「参入して3年間は、ある程度のシェアを確保するのに塗炭の苦しみを味わいました。二輪車は市場が小さいため購入助成による欠品が無ければ1社で十分と言われ、採用先が増えません。加えて、四輪と比べると品質への要求水準が高く防水・防塵であることはもちろん、振動への対策も必須です。二輪車も最新車もあれば旧車もあり、カウル付きやオフロードモデルなど車種も幅広く多種多様です。なので、それらの車両に搭載されることを考慮しなければなりません」
「アンテナを支えるステーにかかる振動は想定以上の力が加わり、結果アンテナ本体にまで影響が及びます。当時、ある車種に搭載された車載器のアンテナに不具合が出た、ということで調査したのですが、内部回路の損壊状況を見た時に振動が原因ではなく、交通事故で大きな衝撃を受けたのではないか、と疑ったほどでした。
そのうえ料金所のゲートを通過する際に万が一、ゲートが閉じたままだと、二輪車では大きな事故となります。ゲートと車載器との通信品質においても要求が高いのです」と、二輪車独自の問題に悩まされたそう。
そうした対策を施し問題のない性能を確保する一方で、市場参入後にもハードルがあり、ETCを使えるようにするセットアップも、決められた事業者しか行えないという制約もあり、販売も伸び悩んだという。
そこで起死回生のためにある一手を打った。
「価格戦略です。機能をシンプルにして量産によるコストダウンを図り、当時人気商品だったアンテナ分離タイプで2万円を切る価格で提供したのです」
同時にセットアップの問題もAJ(全国オートバイ協同組合連合会)などを介して、事業者を確保。タイミングよく、車載器購入助成の政策も実施されたこともあり、シェア拡大に弾みがついた。
「この7年ではシェアトップを維持しています」と元松常務。
今後も二輪ETC普及に注力
現在はもうひとつの主力商品として二輪車用ドライブレコーダーをラインアップ。こちらも市場への参入は後発ではあるが、他社製品よりも機能を向上させ高画質を追求したという。
「車載器で培った知見を活かした商品ですが、販売直後はあおり運転による事件が連日報道されていたおかげで、生産が追い付かないほどでした」と語る。また、同商品からユーザーとの距離を縮めようと、SNSを使った戦略にも力を注いでおり、動画配信なども使って画質性能の高さや視野範囲の広さなどを見て分かりやすいように訴求している。
ところで二輪車のETCで気になるのが、車載器の普及率についてだ。それについて伺うと、まだ伸び率は低く、その台数も半分に満たないという。編集部の調べでも軽・小型二輪は全国で370万台の登録台数があるが、その内の141万台しか普及していない(出典:ITSサービス高度化機構)。よって、二輪車用の車載器については「まだ伸びしろがあり、今後も普及に力を入れていく。これからも安心で安全な二輪車用品を提供していきます」とコメント。この先もまだチャレンジは続きそうだ。
文:二輪車新聞 編集部
※この記事は、『二輪車新聞』の公式ウェブサイトで2020年10月9日に公開されたものを転載しております。