文:中村浩史/写真:長野浩之、松川 忍
※この記事は月刊オートバイ2011年8月号別冊付録を加筆、修正、写真変更などの再編集を施しており、一部に当時の記述をそのまま生かしてある部分があります。
ホンダ「NSR 250R」誕生の歴史
レプリカの枠を超えた。ワークスNSR「そのもの」=MC16
RZのヤマハ、Γのスズキに対し、販売面でこそ4ストVTで引けをとっていなかったものの、2スト人気モデルで遅れを取ったホンダは、MVXが完全に空振り。水冷V型3気筒は思ったような完成度に達せず、VTやVF400Fとほぼ同じイメージの車体デザインも裏目に出て、再びニューモデル開発の必要に迫られることになっていく。
次なる一手は、市販レーサーRSと同時開発され、84年に同時デビューを果たしたNS250だった。RSとクランクケースやシリンダー、さらにメインフレームや前後サスペンションを共有。市販公道モデル用にリファインしただけのすさまじいスペックのNS登場で、風向きがホンダに傾きかけたと思われたものの、今度はヤマハがTZR250を発売。RS=NSよりも、TZ=TZR、その上、GP500マシンのYZR500レプリカぶりに人気が集中し、またもホンダ2ストの人気回復はならなかった。
RSレプリカで叶わなかった2ストスポーツ覇権奪取。残されたホンダの一手は、市販レーサーではなくワークスレーサーのレプリカを作ること。85年の世界GPでフレディ・スペンサーが500㏄とともに250㏄タイトルを獲得したマシンRS250RWが極秘裏に日本に持ち込まれ、次世代マシン開発がスタート。それは、次年度のワークスマシンのためではなく、量産型市販車NSR250Rのためだった。
MVX、NSに続く3度目の正直。まさに、満を持して登場したNSRは、何から何までそれまでのホンダとは違っていた。まさに「ここまでやるか」的レーサーレプリカ。「模倣」を意味するレプリカという表現が正しくなければ、レーサーの公道市販バージョンだ。
ベースとなったのは2年前に発売されたばかりのNS250ではなく、世界タイトルをもたらしたワークスレーサーRS250RW。まったくのブランニューとして開発されたNSRはフレームもサスペンションも、もちろんエンジンも、全てがNSとは違うモデルに仕上がっていた。エンジンはボアストロークや搭載角、吸入・排気方式まで一新し、フレームもNSとは明らかに違うツインチューブ形状に進化。スタイリングも、ベースとなったレーサーNSR、さらにNSR500とウリふたつ。ファンはこの過激さをホンダに求めていたのだ。
「NSR250R(MC16)」主なスペックと発売当時の価格
●エンジン形式:水冷2スト・クランクケースリードバルブV型2気筒
●内径×行程(総排気量):54.0×54.5㎜(249cc)
●最高出力:45PS/9500rpm
●最大トルク:3.6kg-m/8500rpm
●ミッション:6速リターン
●ブレーキ形式前・後:ダブルディスク・ディスク
●全長×全幅×全高:2035×705×1105㎜
●タイヤ前・後:100/80-17・130/70-18
●燃料タンク容量:16ℓ
●ホイールベース:1360㎜
●乾燥重量:125kg
●発売当時価格:55万9000円
※諸元は86年10月発売のMC16