乗るならいまか、絶滅の危険性がある600ccスーパースポーツ(宮崎敬一郎)
カミソリのような走りは他のクラスにない魅力
まず、このクラスのスポーツバイクには、昔から「扱うのに手頃なサイズとパワーがバランスしている」と言う“定説”がある。確かに、今でもそんなバイクが多い。
スーパースポーツに絞らなければ、他にもCBR650Rがそうだし、ネイキッドのCB650R、MT-07やニンジャ650、SV650などもそういう魅力を備えたバイクたちだ。
400クラスなみの車格にリッタークラスに迫るパワーが組み合わさっている。スポーツライディングという点で見ても、大型バイクのように強力な立ち上がり加速もあるし、ダイレクトに反応する「力」を使った旋回性のコントロールなどもしやすい。大パワーを誇る本格的なスーパースポーツの「ニオイ」を楽しめる走りのテイストも持っている。
少し前まで、そんなスーパースポーツがこのクラスにもたくさんあった。4年前の先代CBR600RR、つい最近国内のラインナップから消えたYZF-R6、GSX-R600など。その走りはまるでカミソリ。リッタースーパースポーツでは味わえないキレの良さ、自在の運動性能を見せつけてくれた。だが…消えた。理由のひとつは厳しい排ガス規制、もうひとつは、レースに勝つために頑張りすぎたことだった。
足回りからシャシー、エンジンと戦闘力を高めるためにはコストが掛かる。プライスはリッタースーパースポーツと大差ないところまで跳ね上がった。何より、ピークパワーを求め過ぎた結果、低中速トルクの薄い、神経質なエンジンになった。高価で乗りづらく、それなりのスキルがないと本領を発揮できないバイクは、ストリートでは敬遠される。
だからだろう、カワサキはその神経質さをプラス36ccのトルクで補い、足まわりのセッティングも、レースではなくスポーツライディングに的を絞った。Ninja ZX-6Rは、ハイポテンシャルな600スーパースポーツの魅力を猛烈な速さ付きで身近なものにして生き残ったのだ。
そして新型CBR600RRは、いまや絶滅しつつある「あの頃の」600スーパースポーツそのものだ。ハイアベレージなスポーツライディングができるポテンシャルを持っていて、キットパーツを組み込めば、即レースすらできる。そんなクオリティの走りが光っているバイクだ。
ただ、使いこなせるかどうかは乗り手のスキル次第。このスパルタンさを魅力として捉えるのもいいが、なにしろ絶滅危惧ジャンルだ。乗るなら今かもしれない。
ホンダ新型「CBR600RR」試乗インプレ・車両解説はこちら
カワサキ「Ninja ZX-6R」試乗インプレ・車両解説
600スーパースポーツの速さと扱いやすさを両立
プラス36㏄の余裕から生み出される、太くてダイレクトに応答する中域トルクが素晴らしい。ちょっと大きめに減速されているギア比だが、650㏄へとシフトしつつあるこのクラスのスポーツバイク、ネイキッドモデルと変わらないレベルでの低中域回転域からのダッシュや、それらより遥かに強力な高回転域へのスムーズな繋がりを実現している。
100km/h時の6速回転数はメーター読み6000回転。一方のCBR600RRが5600〜5700回転。よく回ってる分、少し気ぜわしく、振動も出るが、扱いやすさは光る。それにこのクラスの中でもズバ抜けて軽快な身のこなしをする。峠道で比べる限り、CBR600RRと変わらない旋回性や立ち上がり速度で走っていた。ハイレベルな600スーパースポーツの魅力をストリートで実現した数少ないモデルだ。
文:宮崎敬一郎、オートバイ編集部/写真:赤松 孝、南 孝幸