フォンクモーターサイクル
JR神戸駅近くの高架下にアメリカンムード漂う工房を構えているカスタムショップ。SR400/500、ハーレー、スーパーカブ系を多く手がけているが、メーカーや車種に関係なく、カスタムパーツの取り付けからフレームの切断/溶接を含めた改造、旋盤やボール盤を駆使したワンオフパーツの製作、そして塗装に至るまで、オーナーの希望に合わせたカスタム車両を作り上げている。
兵庫県神戸市兵庫区永沢町2丁目6 高架下52号
TEL.078-955-9825
普通自動車免許で乗れる開発実験車両か?
2021年型ニューモデル情報が続々と上がって話題になっているが、数年先のショーで注目を集めるのでは? と思わせるのがこの一台。ファンキーな外装デザインとグラフィックはドラッグレーサーやダートトラッカーのような雰囲気を漂わしているが、注目すべきは前2輪・後1輪のリバーストライク構成で、車体が通常のオートバイのように左右にバンクする構造に加え、トレッド(左右タイヤの間隔)が広いこと。
トレッドが460mm以上になると法律的には普通自動車に準じた扱いとなる。この車両はカワサキZ125がベースになっているのでミッションは遠心クラッチ。つまりAT限定の普通自動車免許で乗れるということだ。
トリシティやナイケンはバンクさせてコーナリングするオートバイの操縦性を保ちつつ、前2輪によって不安定要素を減らしているが、こちらは「オートバイの変化系ではない新たな乗り物」というコンセプトで作られている印象。トレッドを460mm未満にすることは容易なので、オートバイに乗ったことがないユーザー層を意識し、あえて460mm以上に設定しているのではないだろうか。
3輪の安定性が「走りの面白さ」を支える
リバーストライクかつ車体がバンクする構造は、イタリアのピアジオのMP3やヤマハのトリシティ、ナイケンが採用している。これらはブレーキングやコーナリング、段差越えなどでフロントタイヤがグリップを失って転倒、というオートバイの弱点をカバーし、前2輪が生む高い制動力と併せて安全性を高める方向で作られたもの。この車両も高い走行安定性を備えている点では同じだが、乗ってみると安定性の高さを武器に、より積極的に走る楽しさが際立っていた。乱暴な表現だが「転びにくいから無理が利く」のだ。
おそらく世界に一台しかない貴重な車両なので慎重に走ったが、舗装路面でスラローム走行しても前2輪であることの違和感はなく、バンク中にスロットルをオン/オフしても車体姿勢の変化は少ない。バンク角が深くなると外側のタイヤが浮き気味になって旋回力が弱まるが、急に足下をすくわれて転ぶ感じはしなかった。コミューター用途を前提にするとバンクしていく速さが少し強いように思うが、このあたりはキャスター/トレールの変更で比較的簡単に調整できるはずだ。
楽しかったのはダート路面。コーナリング中にリアタイヤがアウト側にスライドしてもスムーズにカウンターステアが当たるので躊躇なくスロットルを開けられ、リアブレーキを使って意識的にスライド状態に持ち込むこともできる。コーナリング中に段差を斜めに横切った際にフロントが弾かれても、通常のオートバイよりハンドルの振られ量が小さいので慌てずに済んだ。
本来なら上級者しかできないアクションを、通常のオートバイよりリスクなく楽しめることは大きな魅力。オートバイ経験のないユーザー層のコミューター用途限定ではなく、既存のライダー層にもアピールする可能性を秘めている。
仕組みも、狙いも違う?? 世界の3輪モデルを改めてチェック!
前2輪+車体傾斜という構造で2006年に登場したのがイタリア・ピアジオ社のMP3シリーズ。現在、日本国内ではピアジオブランドの車両は販売されていないが、欧州では継続してリリースされている。
日本ブランドではヤマハがLMW(リーニング・マルチ・ホイール)と位置付けるトリシティシリーズがスクーターの発展系として存在感を増しているが、MT-09ベースの大型モデル「ナイケン」でスポーツツーリングまでステージを広げている。
文:太田安治/写真:南 孝幸