先代1200からフルモデルチェンジしたテネレはMT-07系のパワーユニットを持つミドルクラス! アドベンチャーカテゴリーということでアフリカツインや1250GSと比べられるけれど、テネレは明確に違う個性を持っていた!
文:中村浩史/写真:松川 忍
※この記事は月刊オートバイ2020年12月号に掲載した「現行車再検証スペシャル」を一部加筆修正しています。

ヤマハ「テネレ700」試乗インプレ・車両解説

画像: YAMAHA Ténéré700 総排気量:688cc エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列2気筒 シート高:875mm 車両重量:205kg メーカー希望小売価格:税込126万5000円

YAMAHA Ténéré700

総排気量:688cc
エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列2気筒
シート高:875mm
車両重量:205kg

メーカー希望小売価格:税込126万5000円

アフリカツインよりもVストロームよりもずっとオフロード寄りなテネレ

2020年、人気カテゴリーといえば、引き続き何シーズン目かの「アドベンチャー」だった。言うまでもなくBMWのGSシリーズがけん引してきたカテゴリーだけれど、2016年にアフリカツインが国内市場に復活。日本では、そこからさらにこのカテゴリーが再び脚光を浴びている感がある。

ひとつ人気モデルが登場すれば追いかけるライバルが登場するのが世の常。20年にはお色直ししたVストロームが、そしてテネレ700がCRF1100Lアフリカツインを猛追し始めた。

アフリカツインという新アドベンチャーキングに対して、Vストローム1050が圧倒的ロード性能で対抗したのに対し、テネレ700はオフロード性能で対抗。これぞアドベンチャーというパッケージで、アフリカツインやVストロームに対抗するというより、アドベンチャークラスの市場を広げる狙いで登場したように思う。

つまり、それほどテネレはアフリカツインともVストロームとも違うのだ。アドベンチャーを「オンロードもオフロードも入って行けるロングツーリングバイク」と定義すれば、Vストロームはロードモデル、アフリカツインはツーリングバイクで、テネレがアドベンチャーという定義にいちばん近いような気がする。

画像1: ヤマハ「テネレ700」試乗インプレ・車両解説

成り立ちはMT­‐07の水冷DOHCツインを搭載した「オフロードバイク」に近い。シート高875mm/最低地上高240mm、前21/後18インチのスポークホイールは、やっぱりロードというよりもオフロードモデル寄りだ。ちなみに前後タイヤサイズはアフリカツインと同じだが、アフリカツインは仕様によって車両重量が最軽量226kg〜最重量250kg、テネレは205kgだ。この差は大きい!

引き起こすだけで、テネレはVストロームやアフリカツインとの差を明確に伝えてくる。背が高く、ボディが細いテネレは「大きなセロー」と言えなくもない気がしてくるのだ。

シート高もオフロードバイク的。身長178cmの私も、ひさしぶりにおっとっと、とくるシート高だったけれど、ボディがスリムなおかげで足が降ろしやすく、なんとかカバーできる。

走り出すと、あの名機MT‐07のスムーズな水冷DOHCツインが、すいぶん力強い。するるる、とスムーズに走り出し、一瞬アクセルをパッと開けるとガツンとダッシュするのだ。

画像2: ヤマハ「テネレ700」試乗インプレ・車両解説

アドベンチャーは行動範囲をオンロードに限定しない

走り出すと、テネレはまず「大柄なMT­‐07」だ。MTはXSR700という派生モデルも持つから、案外テネレもそんな1台なのかも。

けれどその思いは、アクセル開度を大きくしていくととたんに薄れていく。パワー感がMTよりもずっとワイルドで、ガツガツガツと加速していくのだ。力が出てくるのは4000回転あたりからで、トルクがあって回転がスムーズだから、細かいシフトチェンジもしなくてもいい。

ただし、アクセルを意識して大きくパッと開けたときのパンチは、MTを大きく凌ぐものだ。もともとのエンジンからして270度クランクの不等間隔爆発で、このあたりがまるでオフロードのようなトラクションのかかりのよさを生んでいるのだろう。

高速道路に乗り入れてみると、MTよりもショート気味のファイナルレシオの設定で、500回転ほどクルージング時の回転が高い。120km/hの時は5500回転くらいで、このスピード域をスムーズにクリアする。ハンドリングはあくまでも軽く、細いタイヤならではの素直さもある。

スタイリッシュなスクリーンはきちんと整風効果があって、クルージング時の走行風をヘルメットまでカバーしてくれる。可変スクリーンやクルーズコントロールが装備されているわけじゃない。テネレはあくまで「素」で勝負するモデルなのだろう。

画像3: ヤマハ「テネレ700」試乗インプレ・車両解説

純正タイヤが、ややオフ寄りのピレリ製スコーピオンラリーとはいえ、タイヤのエッジを削り取るような走りでなければ、ワインディングも軽快にこなしてくれる。少し車体をバンクさせると、フロントタイヤがきれいに切れ込んでくるのも、まさにヤマハっぽいハンドリングだろう。

このあたりは、MT­‐07とはまるで違うハンドリングだけれど「素直さ」と「恐怖感を抱かせない特性」は似通っている。それが、巷間いわれているヤマハハンドリングなのだ。

その素直さのあまり、少しダートに踏み込んでもみた。そうガレ場のないフラットなダート、そして許可をいただいて走る関東の「あのビーチ」ともども、トラクションのかかりがいいエンジン特性、軽く素直なハンドリングが、難なくオフロードを進んでくれる。

考えてみれば重量200kgの700cc──オフロードではモンスター級のモデルだけれど、ダートビギナーにも恐怖を与えることはなかった。

面白いのは、なんどかフカフカの砂にタイヤを取られた時。タイヤがスピンしすぎないようにエンジン回転を上げずにそーっとクラッチをつなぐと、タイヤは砂に埋まることなく、じりじりと前に進んでくれたこと。

これが270度クランクのトラクションかぁ!  トラクションコントール、エンジンパワーモード切り替えもないテネレだけれど、なるほどこれはエンジンの素性で勝負できる!

画像4: ヤマハ「テネレ700」試乗インプレ・車両解説

これならば、ワインディングのすぐわきにダートの道が始まっていて、その先に絶景が広がっていそうな場面でも、ためらいなくフロントホイールをダートに向けることができる。Vストロームよりもアフリカツインよりも深いダートに踏み込んでいけそうなのがテネレというわけだ。

アドベンチャーとはつまり、舗装路だけに行動範囲を限定しないオートバイなのだと思う。日本という風土において、ミドルクラスのよさが喧伝されることは多いけれど、テネレに乗ると、その意味がよく分かる。

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