まとめ:宮﨑健太郎/写真:松川 忍
石川 譲 氏
開発責任者。CBR1100XX、RC211V、CBR1000RRシリーズ、RC213V-Sなどの車体設計を担当。開発責任者としてCBR1000RR/600RRシリーズ、CB125/150/250/300R、CBR1000RR-Rなどを歴任。愛車は2012年モデルのCBR1000RRとCB150R。
堂山大輔 氏
開発責任者代行。VT1300CX、CB1100、CBR1000RR、CBR600RR、RC213V-Sなどの燃料研究を担当。今回のCBR600RRで開発責任者代行と燃料系研究を兼務。
伊藤真一 氏
1966年、宮城県生まれ。1988年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。写真のCBR1000RR-Rの開発ライダーも務めた。2020年から監督として「ケーヒン ホンダ ドリーム エス・アイ レーシング」を率いてJSB1000などに参戦。
ホンダ新型「CBR600RR」開発のきっかけは、アジアからの要望だった
──開発のスタートは?
石川:数年前からアジアロードレース選手権に勝てなくなったこともあり、現地から新型の要望が上がってきました。そのころから、では何をやるべきか…という話になりました。主な開発動機はアジア選手権、ですね。
──新型CBR600RRは日本とアジアで販売しますが、EUなど販売が終了しているエリアからの要望は?
石川:特にヨーロッパからは要望はなかったです。今回は起点がアジアロードレース選手権からでしたのでタイ、インドネシア、マレーシアなどの要望が大きかったと思います。ある程度市場のボリュームがないと我々も作れません。日本でも販売しますが、結果的には日本市場が最大になりますね。
──従来型と新型、一番変わって一番効果があった技術は?
石川:一番は電子制御が最新になったことです。伊藤さんにも開発を手伝っていただいたRC213V-Sの技術が基本になっています。あと2007年型PC40のころから、進歩した制御技術が相当あります。
伊藤:ディスプレイまわりとかSC77(CBR1000RR)に似てますね?
石川:基本的には5軸IMUとかECUとかディスプレイなどは、SC77がベースになっていますが、中身…制御自体は最新のものになっています。
伊藤:制御はSC77のころより良くなっている印象ですね。洗練されたものになっていると思いました。
──電子制御の一番のメリットは?
堂山:ユーザーの選択の自由が広がったことですね。自分好みに走りのバリエーションを選べることは、レースでも有利に働きますから。
──ライディングモードのレシピのようなもの…各モードの仕様は誰かがリーダーシップとってコレ!! って決めるのでしょうか?
堂山:それはないです。開発チーム員たちで、こうあるべきじゃないかって議論して決めています。
──意見はチーム内で分かれますか?
堂山:正直言いますと、分かれますね。パワーモードの2は、RC213V-Sの出力特性をそのままコピーしたものです。でも2ではマイルドすぎるという意見もあり、それを反映したのがパワーモードの1なのです。
──インジェクションの径は前の型の40mmから44mmへと、かなり大きくなっていますね。
堂山:それはまさに、スロットルバイワイヤのご利益です。普通のケーブル操作ですとスロットル操作が敏感で、その割には高開度側が何も来ない…。スロットルバイワイヤ無くして、あのボアは実現できませんでした。
──レースで勝つため、パワーアップは今回の開発の大きなテーマですか?
石川:レーサーにしたとき、馬力を出せるのかは重要でした。600は久々のモデルチェンジですが、その間何もやっていなかった訳ではなく、いろいろ研究したものを採用しています。今回はレーサーにしたとき、高回転化に対応できるように、エンジン各部の材質と設計を変更しています。
──懸架方式は、ユニットプロリンク以外を検討したりしたのでしょうか?
石川:どの型式がいいか色々と検討しましたが、バランス的にユニットプロリンクを継承した方が良いと決まりました。スイングアームの形状とか、ねじれ方とか見直しています。
伊藤:よくぞここまで、というくらい接地感が出ましたね?
堂山:スイングアームとかアクスルまわりの剛性とか構造を、色々試しました。サーキットテストをする中で、リアの接地感とトラクションをどうやって出すか…。見た目はそんなに変わっていないですが、かなりアップデートされていると思います。
──ウイングレットの仕様は?
石川:CBR1000RR-Rの開発を伊藤さんと一緒にやっているころから、600ならばこういうメリットが出せるんじゃないか、ということを考えていました。
堂山:出したかったのはフロントの接地感。あとは600らしいハンドリングを、どうやって両立させるか。
──排気系は前の型同様、センターアップ型を採用していますが。
堂山:採用は早く決まりました。ある意味、600のアイデンティティと思っていますし、レーサーにしたときのデメリットもないので。お客様からもポジティブに受け取られているようなので、採用して良かったと思います。
伊藤:レーサーにした場合、どういう仕様になりますか?
堂山:あと1000回転使えるようになります。
石川:量産車の仕様で、1速をレースで使えるようにレシオを変えています。
伊藤:1速が使えるようになると、それは効きますね!
石川:開発ライダーをしてくれた小山知良選手は、「早く新型でレースしたい!」と言ってましたよ。
──開発で一番苦労したところは?
堂山:つまらない答えになりますけど、苦労はなかったです。皆それぞれが、この600でやりたいことがありましたから。メンバー間で衝突はなかったですけど、議論はしましたね。皆が思いの丈をぶつけたという感じです。
石川:開発のメンバーは基本的には各部署から選んでもらいますが、誰が良いか希望は出しています。堂山は自分がやりたい、と志願しています。自分でやりたいと言ったから、じゃあ諦めさせないぞと(笑)。やりたいというのはすごい原動力です。開発で楽なことは一瞬もないですが、情熱を原動力に皆諦めることなく、新しい600を作ってくれましたね。