ホンダ「PCX」2021年モデル 通勤インプレ
上質感がグッとアップした新型PCX
あれは中学生の頃だろうか。初めてなめらかタイプのプリンを食べたのは……。あのときの感動と似たものをPCXに乗りながら感じています──。
新型PCXに初試乗したのは、2020年末に行なわれたプレス向け試乗会でした。そのときの感想を大雑把にいうと、軽い! 速い! 止まる!
新型は先代モデルと比べると、圧倒的にキビキビしていて、とくに出足の速さが光ります。信号待ちでは、隣にバイクが並んでくるのがひとつの楽しみに。競うわけではないけれど、50m走なら大型バイクにもおいていかれません。
テスター・太田安治さんが行なったクローズドコースでの実測検証によると、0-100mのタイムが7.322秒。100m地点での速度は70.71km/hという結果に。公道だったら、信号が青になった瞬間フルスロットルにしたら7秒ほどで法定速度オーバーですね。汗
同時に制動力もグッと強化されました。新型は初めてリアにディスクブレーキを採用。フロントのディスクブレーキにはABSも標準装備しています。
スロットルを開ける、戻す、ブレーキを握る。幹線道路をスクーターで走るとほとんどこの連続ですよね。加速・減速の基本性能が大幅にレベルアップした印象です。
僕がPCXとの通勤ライフを過ごした期間は2週間ちょっと。片道約7kmの通勤と仕事での移動、スーパーへの買い物などで利用していました。続けて10km以上はほぼ乗らない、街乗りオンリーです。
さて、冒頭のなめらかプリンの話に戻ります。PCXでの通勤生活が始まって3日目のこと。「あれ、この道ってこんなに舗装が綺麗だったっけ? なんて、なめらかなんだ!」と違和感を抱きました。
持ち前のキビキビ感が身体に馴染んできて、PCXで走るのがあたりまえの日常になったとき、初めて振動や衝撃が異様に少ないことに気づいたのです。
新型PCXは、エンジンとフレームを新設計したフルモデルチェンジ。さらに日本の原付二種で初めてトラクションコントロールを採用。リアブレーキはディスクに。
そしてもうひとつ大きな変更点があります。リアタイヤが以前の14インチから13インチにサイズダウンしました。それなのに、なめらかさ、上質さがすこぶる向上しています。なぜ?
13インチにした分、リアサスペンションのストローク量は10mmアップし95mmとなりました。さらにタイヤはワイドなものに変更、エアボリュームも増やしています。これらの効果で、タイヤサイズを落としながらも従来モデル以上のクッション性を得たのです。
大きな段差ではそれなりに衝撃を受けます。車体が吸収してくれるのは、見えないくらいの小さな段差。普通の舗装路が新しくできた道のように感じるのです。
50cc~125ccは、バタバタと「頑張って走るもの」という認識が自分の中にありましたが、新型PCXの乗り心地は高級車と呼ぶにふさわしいもの。高級セダンでアクセルを踏んだときの気持ちよさにも似ています。
振動を抑えるという点では、この新型PCXでは、「ラバーマウント構造ハンドルホルダー」を採用したことも大きいでしょう。
バーハンドルを留めているホルダーの下部にラバーの緩衝材が備わっています。これにより「手元に伝わる不快な振動を軽減した」とのこと。原付にはあるあるなアイドリング時や加速時の気持ち悪い微振動がカットされています。
新型PCXのスタイリングに関してホンダの開発チームは下記のように伝えています。
水上を悠々と疾走するパワークルーザーのような水平基調で伸びやかなプロポーションと、シンプルでエレガントなサーフェースの表情、ダイナミックな流れを感じさせるエッジラインを合わせることで、PCXが醸し出すワンクラス上の上質さを直感できるスタイリングデザインとしました。
僕はパワークルーザーに乗ったことがありませんが、道路の上をなめらかにかつ力強く走る感覚は、ちょっとジェット船に似ているかも、と思った次第です。
外観は開発チームが語る通り、スタイリッシュで、鋭い仕上がりに。これまでPCXというと、とくに白色は卵を横にしたような丸みのある可愛らしさが個人的には特徴だと思っていました。新型はキリっとしていて、イケメン感が漂っています。
性能の大幅な進化に合わせて、それを表現するかのように一新したスタイリング。乗れば乗るほど、外見と中身が絶妙にマッチしていると思うばかり。
125ccのスクーターは、通勤通学・買い物などで活躍し「普段の足」なんて言われることもあります。けれどPCXの場合は、明らかにそれだけではありませんね。
とくに新型は、「これでいいや」じゃなく「これがいいんだ!」と強い意志を持った人に選ばれる一台でしょう。クラス最高峰の装備もさることながら、所有欲を満たしてくれるという点において、これまでの原付二種の枠を完全に飛び出していると僕は思います。