文:太田安治/写真:南 孝幸/モデル:小野塚雅人
街乗りやツーリングを想定したエアバッグ・ベスト
イタリアのアルパインスターズはおよそ20年前からエアバッグシステムの開発を続け、約200万kmの走行データとMotoGPライダーを含めた2000回以上のクラッシュデータを収集/分析。クラッシュを検出するとエアバッグが展開するシステムを作り上げた。
先に製品化されたレース用とスポーツライディング用で確かな性能を実証しているが、この「テック5」は市街地および公道でのスポーツ走行、軽いオフロード走行までを前提に設計された最新モデルだ。
最大の特徴はジャケットの下に着るだけ、という手軽さ。フロントのジッパーとマグネットフラップを閉じると自動的にシステムが起動し、LEDディスプレイにエアバッグ状態とバッテリー残量が表示される。オートバイとコードやケーブルで接続する必要は一切ない。
組み合わせるジャケットの胸囲にエアバッグ膨張分の約4cmの余裕があれば機能するから、タイトフィットのジャケット以外なら普段来ているジャケットでOK。フィット感にこだわるなら、大型シャーリングの配置などでエアバッグ展開時に対応したアルパインスターズ製の「テックエア・コンパチブルモデル」を選べば間違いない。
CE1規格のバックプロテクター部には加速度センサー×3、ジャイロセンサー×3を内蔵したECUを備え、1000分の1秒刻みで加速度と角速度(回転運動速度)を監視。独自のAI活用アルゴリズムが転倒や衝突が起きたと判断すると、2本のカートリッジからアルゴンガスが噴出し、平均0.025秒という速度でエアバッグが完全展開。障害物や車両、路面に衝突する前にライダーの上半身(肩、上腕部、胸部、わき腹、背中全面、鎖骨)を保護する。
エアバッグの衝撃吸収性能により、従来のプロテクター装着時と比較して背中に受ける衝撃力は最大95%減少し、バックプロテクター18枚分の効果があり、脊椎損傷の可能性は圧倒的に低くなる。安心感は絶大だ。
クラッシュの平均時間が約2.5秒であることから、完全に展開した状態を5秒間キープ。その後は数分かけてガスが抜け、展開前の状態に戻るので、クラッシュ後にライダーの動きが制限されることもない。
エアバッグシステムは構造上、通気性確保が難しいが、この製品はメッシュ素材を積極的に採用。エアバッグ自体もパンチング加工により通気性を持たせ、蒸し暑い日本の夏でも快適に着用できることも魅力だ。
内蔵バッテリーはUSBケーブルを介して約4時間でフル充電となり、約30時間稼働。また、専用アプリとBT接続すれば、システムのオン/オフ、バッテリー残量確認、走行距離、速度、最高速度、平均速度、稼働時間の記録が可能で、ファームウエアアップデートも行える。
なお、エアバッグが展開した後は、認証を受けたサービスセンターでリチャージサービスを受けることになる。アルゴンガスカートリッジ2本の交換、エアバッグ自体の交換、システムチェック、本体クリーニングなどを含めたメンテナンス料金は税込4万9500円。
約10万円の製品価格ともども安価とは言えないが、体に深刻なダメージを受けることを想像し、安全性の高いヘルメットやジャケットの価格を考えると、その金額を出す価値は大いにある。
エアバッグの作動前と膨張時の見た目を比較
アルパインスターズのジャケットに用意されている『テックエア・コンパチブル』仕様と組み合わせればエアバッグの性能を余すことなく引き出せる。
膨張すると肩と胸部分が大きく膨らみ、この状態を5秒間キープした後に徐々にエアーが抜けて元の形に戻る。
クラッシュ検出からエアバッグ膨張までの所要時間はベストのサイズによって異なるが、平均すると0.025秒。体が路面や障害物、車両に衝突する前に完全膨張することで高い防御性能を発揮する。
テスター太田安治の欲張りリクエスト
従来品より着心地が格段に良くなり、アプリ連動で使い勝手も上がった。ただ、通勤通学やツーリングを楽しむ一般ライダーにとってはまだ手を出しにくい価格。半額近くになれば一気に普及しそうだが…。