カワサキ「ゼファー」シリーズの歴史
オートバイ本来の愉しさに原点回帰したネイキッド
ゼファー(400)の誕生当時には誰もが疑問符をつけた。「性能至上主義」、レーサーレプリカ一辺倒の流れこそ否定され始めてはいたものの、それに代わって時代をリードするオートバイは、何らかの新しいメッセージやコンセプトを持っていなければならないはずだった。
ゼファーは何も持っていなかった。正しくは、カワサキが、あえて何も持たせなかった。オートバイの機能としてあるべきものだけがそこにあり、不要なもの、特別なものは何ひとつない。確かに当時のライダーには、46PSに鉄フレームのゼファーは、一見なんの刺激もない退屈なモデルに見えた。けれど、それがカワサキの狙いだった。
そして、ゼファーの走りは新鮮だった。何の変哲もないパワーとハンドリング、誰にでも扱うことができて、なおかつ少しの物足りなさを感じるような自然なフィーリング。当時、人気の兆しを見せていた「空冷4発カスタム」の流れに乗り、勢いを加速させもした。誰もがゼファーに、あのZ2の、そしてZ2改の面影を見ていた。
結局ゼファーは、出口の見えない性能競争を終結させ、ネイキッドだけでなく、アメリカンやシングルといった「非レプリカ」を、そして兄弟モデル750、1100を生み出したのだ。
大排気量・空冷四発の嚆矢/絶版後も爆発的人気に
400、750に続くゼファーシリーズ第3弾を投入するにあたってターゲットとなったのはリッタークラス。当時このクラスに明確なネイキッドモデルが存在せず、ゼファー750にはZ2のイメージを投影させたため、Z1の後継モデルの必要性もあった。Z1は900ccだが、「懐古趣味に走った復刻版では技術者の本質から外れている」と、ラグジュアリーツアラーのボエジャーをベースに空冷1100ccエンジンを新開発し、92年3月にゼファー1100がデビューする。
1シリンダー2プラグ方式やデジタル点火、バックトルクリミッターを採用したエンジンは、控え目とは言え93馬力を発生し、車重も乾燥で243kgに達したため、安全性を考えて車体には充分すぎるほどのマージンが与えられた。
その結果、つづら折りのワインディングから高速コーナーまでスタビリティの高いハンドリングを実現し、Z1の再来というポジションから離れて、1台のリッタースポーツバイクとして高い評価を得るに至る。96年にはRSを追加してバリエーションを拡大するが、強力なライバル達の台頭や排ガス対策や騒音対策を受け、2007年1月のファイナルエディションを最後にラインアップから外れた。
カワサキ「ゼファー1100 ファイナルエディション」を解説
この記事は、月刊『オートバイ』2020年12月号別冊付録「RIDE」の特集を一部加筆修正したものです。