文:ゴーグル編集部/写真:松川 忍、柴田直行/モデル:葉月美優
ドゥカティ「スクランブラー1100 スポーツPRO」インプレ・解説(山口銀次郎)
スクランブラーならではの気軽さと軽快さに感動!
オーソドックスでオーセンティックな車体構成は、一見懐古的に見えるかもしれないが、現代の走行環境や求められるパフォーマンスに応えるため、上質なパーツチョイスと高度なセッティングにより、乗り手やシチュエーションを選ばない懐の深さを実現している。
数多くのタイプが存在するスクランブラーシリーズ中トップエンドに君臨するのが、スクランブラー1100PROであり、さらにアップデートを加えたモデルが1100スポーツPROである。
最上級モデルでありながら、乗り手の技量や経験といったハードルは存在せず、気軽に付き合えるスクランブラーシリーズならではのフレンドリーさに溢れている。今回の試乗では、トップエンドモデルともいえるスポーツPROならではの個性にフォーカスを当てたいと思う。
タンデム部分から緩やかな高低差があるダブルシートはマット調でシボが際立つ表皮を採用し、幅広い自由度と適度なグリップ感を生み、高いコントロール性と快適性を両立している。
特徴的な厚みのあるシート形状と相まって、体重を支える部分が集中しないことでロングトラベルにおいても疲労の蓄積がなく、苦痛を伴わないのがうれしい。街乗り限定としない、高いパフォーマンスを兼ね備えたモデルだからこその気遣いが伺える。
ラフに付き合えるキャラクターだからこそ、普段の走行や、チョットした距離の移動でもその違いが顕著にあらわるのが、アップデートされた足まわりだろう。
前後とも150mmに及ぶストロークを誇るものの、舗装路でのライディングを想定したセッティングにより、加減速での不安定さは一切なく、引き締まりキメ細やかなショック吸収能力を発揮するといった印象が強い。シビアなセッティングを有さず、気難しさもない。
相反するイメージかもしれないが大らかさも併せ持ち、エンジンパフォーマンスと車体を絶妙なバランスさせることに大きく貢献している。レースユース御用達の名門メーカー製のハイレベルなパフォーマンスパーツを、バランス良くパッケージして、スニーカー感覚で堪能できてしまうキャラクターは本当に贅沢としか表わせられない。
また、本格的なラフロードを走行したのではないが、ブロックパターンのタイヤはフラットな砂利道での確かな接地感を提供してくれる。ロードタイヤでの砂利道でのツルツルとした、接地感のない不安定さは皆無といっても過言ではないだろう。雰囲気だけのブロックタイヤではなく、キメ細やかなショック吸収性能の本領発揮といった具合に、レベルの高い走破性を体感することができた。
カフェレーサーを意識した派手さを抑えたシックなボディメイクだが、艶感を抑えたマットブラックを基調とするからこそ、ゴールド&イエローのショックユニットやタンクに大胆に配した「1100」のロゴも映えるというもの。
また、デイライトの役目を果たす丸目ヘッドライトの輪郭部に備わったLEDランプや、幅広いパイプハンドルエンドに備わったミラー等により、上級な"カフェレーサー"を演出している。ふと停めた姿に見入ってしまうのは、二度や三度ではなかった。そんなカフェレーサーの雰囲気は満点だが、ライディングポジションに窮屈さは一切なく、やはり馴染みやすさが際立っている。
オーバーリッターエンジンを過剰と捉える方もいるかもしれないが、1100L型2気筒デスモドゥエ・エンジンは圧倒的な包容力と優雅さを提供する。もちろん、スーパースポーツモデル譲りの加速力を発揮するので、車体とバランスを鑑みると不満に思うことはないだろう。
ブロックタイヤを前後装備しているので、100%のエンジンパフォーマンスを発揮することは叶わなかったが、公道というステージに於いては十分すぎるパフォーマンスといえる。また、エンジン低回転域から粘りのあるトルクフルな特性により、ゴー&ストップが繰り返される街乗りでもストレスを感じることはいだろう。
絶対的な存在感がありシリーズ共通のフレンドリーさを併せ持つ、そんなチョイ乗りからロングトラベルまで容易にイメージできる1100PROのパッケージは、スクランブラーシリーズ随一だろう。