語り:伊藤真一/まとめ:宮﨑健太郎/写真:松川 忍/モデル:大関さおり
伊藤真一(いとう しんいち)
1966年、宮城県生まれ。1988年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2021年は監督として「Astemo Honda Dream SI Racing」を率いてJSB1000などに参戦。
ホンダ「CB650R」「CBR650R」試乗インプレ(伊藤真一)
フロントフォークを一新し走りに磨きをかけた
CB650Rはストリートファイターで、CBR650Rはスポーツバイクです。カウルの有る無し、ハンドルの違い以外は共通パーツが多い両車ですが、初期型を試乗した際は、それぞれのライディングフィールが大きく違ったことが非常に印象に残っています。
今回のモデルチェンジでは、フロントフォークにショーワ製SFF-BP(セパレート・ファンクション・フロントフォーク・ビッグピストン)を採用したのが一番の変更点ですが、やはりこのフォークの採用が、それぞれのフィーリングの違いを生み出しているのが興味深かったです。
まずCBの方ですが、初期型に乗ったときにこのバイクは積極的にピッチングを使って、キビキビとストリートファイター的な走りを楽しむモデルだと思いました。新型はSFF-BPの採用により、さらに狙った方向のハンドリングになった感じがします。
旧型はフロントの重量配分が過多で、フロントサスの初期の動きが早い印象がありました。少し荒れた路面で攻めて走ると、フロントタイヤの接地離れやキックバックによる振られがあったりしました。旧型では、攻めた走りを楽しむならステアリングダンパーが欲しいな、と思ったりもしました。
しかし、新型は初期の動きが早い印象がなくなり、「コシ」のあるフロントサスになっていますね。接地離れは無くなり、キックバックも減少しているので、スロットルを開けたときの安定感が強くなりました。
4気筒エンジンも中速からトルクが出ていて、スロットルレスポンスも「手につく」ようになっているので、ストリートファイター的なキビキビした走りにさらに磨きがかかり、乗っている時の面白さが増しています。
このCBに採用されているSFF-BPフォークは、圧側だけでなく伸び側も減衰を強くしているので、車両としては操安が大人しい方向に行くのですけど、ハンドリング設定のバランスとしては良いと思いました。
高速道路を走っているときは、車速が70km/hを超えるとライディングフィールがすごく良くなり、走りの高級感が向上していました。
またステアリングの舵の入り方も減衰が上がっているため、実感が出てきたというか手応えが出てきた感じがします。このあたりのCBのハンドリングの設定も、非常に好ましく思えました。
SFF-BPフォークは、高いスピードレンジで真価を発揮。走りのグレードの向上を感じる!
CBRについても、旧型はCB同様にフロントサスの初期の動きが早い印象がありましたが、CBRにはフロント側にカウルが装着されているので、その重さがちょうど良い抑えとなっている印象でした。
またCBよりライディングポジションの前傾が強いことも作用して、旧型CBに感じたフロントタイヤの接地離れや振られなどは軽減されていました。そのような試乗フィールから、旧型ではCBよりCBRの方が好みでした。
新しいCBRもSFF-BPフォークを採用したことで、70km/h以上の速度域での走りの高級感が増していたり、路面の追従性が上がって乗り心地が良くなっています。
ただ、フロント側の伸びが抑えられているため、リアサス側から受けるフィーリングが、旧型から変わった感じがCBRでは強かったです。
それが気になるのは70km/h以下の速度域で、それより上の速度域では乗り心地がグンと良くなるので、これをネガと指摘するほどのことではありませんが。
CB、CBRともに新型でフロントサスが変わったことにより、車体全体のサスに対する印象が大きく変わっています。リアサスを変えても車体全体のサスに対する印象は変わるものですが、どちらかと言えばフロント側を変えたときの方が影響は大きいですね。
新型はCB、CBRともにフロント側にかかっていた荷重が、パッと離れたときに全部リア側に乗っていく。またフロント側の剛性が上がっているため、鉄フレーム特有のスイングアームピボットまわりがグニャっと動くヨレ感が、コーナーで荷重がリア側にドンと乗ったときにあります。
もっともこれは腕のあるライダーがかなりスロットルを開けて、ハイペースでコーナーを攻めて乗ったときくらいしか、感じられないでしょう。一般のライダーで、それがわかる方は少ないと思います。
大多数のライダーにとっては、SFF-BPフォークの採用によって、旧型よりも走りのグレードが上がったことを感じられるメリットの方が大きいです。車体全体のサスに対する印象が新型で変わって、そのことがよりプラスに働いているのはCBの方かな?と思いました。
CB、CBRともに新型はスピードレンジを上げたときに真価を発揮するサスになった感じですが、安定感が増したフロントサスはスロットルをガンガン開けて、積極的にピッチングをガンガン使って走ることを可能にしています。これはストリートファイターの、CBにより適した設定だと思いましたね。
あと非常に興味深かったのは、新型のCBとCBRを乗り比べてエンジンから受けるフィーリングが、両車で大きく違って感じられることでした。特にCBの方は低速域からスロットルを開けたとき、「出過ぎる」と感じました。
高速道路を走っているときは、スロットルを開けたときにそういうことを感じないのですが…。そんなことはないだろうとわかっていますが、ファイナルレシオがCBRと違うのかな?と思ったくらいです。
この両車のエンジンの印象の違いは、ハンドル位置の違いによるライポジの差もあるのでしょう。
エンジン自体は旧型と同じ95PSで、燃調とかは旧型から変えていないと思いますが、体感的には新型は旧型より10PSくらい上がったような印象を受けました。新型は、エンジンの元気さが増した感じです。
また旧型に比べ、新型はエンジンのフリクション感が無くなりましたね。自分はフリクション感をすごく気にするタイプなのですが、自分の言うフリクション感とは爪で壁を引っ掻いたような感じ…スロットルを開けたときに、引っ掛かりを感じるのをフリクション感と表現しています。新型はフリクション感が無くなったので、スロットルワークにより集中できるようになったのが好ましいです。
フロントサスのグレードが上がって、エンジンが元気よく感じられるようになったためか、過去の試乗では全く不満を覚えず、バランスが良いと感じていたブレーキの容量が足りないな、と思ってしまいました。昨年CBRを試乗したときは、よりハイペースで走れる峠道をルートに選んだのですが…。
実は旧型のフォークでは、そこまで強くブレーキをかけられていなかったのかもしれません。新型のフォークになって、もっとブレーキを握れるようになったことで、ブレーキ容量が足りないと感じるようになったのでしょう。
CB650RとCBR650Rが、2019年にデビューして以来、試乗後はいつもCBRの方が自分には好ましいという感想でした。でも今回のモデルチェンジされた新型については、逆転してCBの方が自分の好みに合いました。レース以外では、自分は構えてバイクに乗るのが好きじゃないです。普通の格好でバイクに跨って、ヘルメット被ってサッと走り出せる…ような感じが好きです。
またあまり重たくなくて、風が感じられるバイクが好きですね。あとスロットルレスポンスが良かったり、ピッチングを上手く使えたり、コントロールしやすいバイクが好きなので、その点でもCBは良いなと思いました。
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