文:山口銀次郎、小松信夫/写真:柴田直行/モデル:葉月美優
※2021年5月19日に公開した同記事に関しまして、不適切な部分がございました。お詫びして訂正いたします。
ウラル「ギアアップ」インプレ・解説(山口銀次郎)
進化し続けるリアルアドベンチャー
2019年モデルで大幅な改良が加えられたエンジンだが、2020年モデルにおいても各機能部品が見直され、耐久性能の向上が図られた。ルックスや性能面では大きな変化はないものの、毎年確実に進化し続け、世間のニーズに応えているというのがウラルの特徴ではないだろうか。誰もがウラルサイドカーに求めるリアル“ミリタリー”イメージを崩すことなく、実用性と信頼性を高めているのだ。
ウラルは、通常のオートバイ同様の1輪駆動のサイドカーと、側車側の車輪も駆動する2輪駆動のモデルを用意しているが、今回は1輪or2輪駆動切り替え可能なギアアップに試乗してみた。
試乗したのは、ギアアップの中でもベーシックな仕様のモデル。予備タンクといえる大容量のジェリー缶や、折りたたみ式のスコップ、そして前後横同サイズのスペアタイヤを標準装備し、アクシデントを考慮した実装備となっている。
日本では大げさと言えるほどの装備と思われるかもしれないが、ギアアップが生まれ育ったロシアの道路状況等を鑑みると必須アイテムといえる。そんなリアルにタフネスな仕様が、日本でそのまま手に入れられることはファンならずとも嬉しい限りだ。
個体差があるかもしれないが、構造上複雑となるバックギア(後退)や1輪or2輪駆動の切り替えのギア操作が、前年モデルよりも格段にスムーズになっているのはありがたかった。ただしスムーズとはいえ、なんでもかんでもボタンひとつで操作可能な電子制御機能とは異なり、メカメカしくもダイナミックな操作感は損なわれていないので、ウラルらしい醍醐味は満喫できるはずだ。
スチール製のサイドカー(船)にそれを支える強固なフレームは、重厚な造りで重そうな印象を与えるが、 平坦な場所なら押し引きが簡単にできるほどで、切れ角のあるハンドルと相まって取り回しは意外と軽やかである(成人男性であるならば、そう感じるのでは?)。
もちろん、エンジンがかかっていればバックギアを使えるので押し引きする必要はないのだが、それだけ均衡がとれた構成といえるのだ。この素直に取り回せられるバランスの良さにより、アンダーリッターエンジンであってもパワーロスが少なく、充分な加速力と定速走行時に必要なトルクを活かすことが可能となっている。さすがサイドカー専門メーカーだけあって、絶妙なセッティング(車体構成)は一級品。
高出力化に不向きなフラットツインエンジンを採用し続けているのには、サイドカーならではの安定した走りを求めるが故のチョイスであるというのが、乗れば乗るほど理解することができるだろう。
1輪駆動サイドカーは、エンジン回転の上昇下降の反応がダイレクトに車体の挙動となって現れるので、エンジンのツキ(スロットルに対しての反応)はある程度大らかであったほうが正直気持ち良く走行できるだろう。なので、低回転域から中回転域で太いトルクを発生させるフラットツインエンジンが、 ウラルサイドカーのパッケージととても相性が良いと断言。
パッセンジャー(サイドカー側の乗員)が乗り込み、タンデムライダーもいる3人乗り状態であっても、力不足を一切感じることがないのは、これも太いトルクが有効に作用しているからだろう。
また、数値的にアンダーパワーに思われるかもしれないが、現代的にも見た目に細くブロックパターンのリアタイヤを採用することにより、余計なグリップ力(抵抗でありパワーロスにも繋がる)を有さず程よくブレイク(グリップ力を失う)してくれるので、小気味よくも鋭いコーナリングやターンが可能となっている。
ともすると限界値がただ低いだけという印象を与えてしまっているかもしれないが、それは大きな間違いだ。永くロシアの地で求められる走破性や突破力は、トップクラスであり最上級仕様と言っても過言ではないだろう。そう、ウラルサイドカーは、 夢見がちな雰囲気モノとは別格のリアルアドベンチャーなのだ。