世界耐久が日本に身近になりました
例年より大きく遅れて、この6月にようやく開幕を迎えた世界耐久選手権。
例年ならば3月頃に開幕戦ル・マン、それが鈴鹿8耐を最終戦にすることで、ボルドール24時間を皮切りとする「秋の開幕」シーズンとなり、それが定着するかな……って頃の、このコロナ騒動。
2021年シーズンも、4月中旬に予定されていた開幕戦が、約2カ月遅れとなっての、このル・マン24時間耐久。世界耐久シリーズは、このル・マン24時間を皮切りに、7月中旬にポルトガル・エストリル12時間、9月中旬にフランス・ボルドール24時間、そして最終戦が11月初旬の日本・鈴鹿8時間耐久という予定になっています。
世界耐久の顔ともいえるル・マン24時間も、2021年が44回目。鈴鹿8耐が耐久選手権の最終戦となったことで、重要な位置づけとされて、より「世界耐久」というチャンピオンシップが日本のファンの身近になったこの数シーズン。
さらに2021年のエントラントとして、世界耐久の雄であるスズキ・エンデュランス・レーシング・チーム(=S.E.R.T.)がヨシムラとジョイント、「ヨシムラSERT MOTUL」としてリニューアル。
さらに2020年のル・マン24時間を制した<https://www.autoby.jp/_ct/17388849>TSRホンダは、フランスホンダとのジョイントでフル参戦もう6シーズン目。今シーズンは2020年全日本ST1000チャンピオン、高橋裕紀がレギュラーライダーとして参戦します。
他にも2018~19チャンピオンチーム・SRCカワサキは、日本のネットショップ王手の「Webike」がスポンサード。鶴田竜二さん率いる「TRICK STAR」もジョイントしている。Webikeは世界耐久選手権シリーズの冠スポンサーのひとつでもあります。
事前テストまで行なわれながら、直前にキャンセルとなった開幕戦から2カ月、6月開催となったことで、コンディションは安定し、ウィークを通じて雨の心配のない大会となりました。
予選はフリー走行1回目から2日間の予選を通じて、#37BMWモトラッド、#7YARTヤマハ、#4TATIベルリンガー/カワサキ、#1ヨシムラSERT、#11SRCカワサキ、#5TSRホンダが好タイムをマーク。3人のライダーの平均タイムを競う予選では、1回目にヨシムラSERTが、2回目にYARTヤマハがトップタイムをマークし、総合結果では#7YARTヤマハ、#1ヨシムラSERTが0秒1差で1―2。3番手以下に#37BMWモトラッド、#4TATIベルリンガー、#333VRD IGOLエクスペリエンス/ヤマハ、#5TSRホンダ、#11SRCカワサキ、#6ERCドゥカティが続きました。
スタート直後にセーフティカー介入の大波乱
レースは日本時間の6/12(土曜)夕方にスタート。ポールポジションの#7YARTヤマハがスタートでエンジン始動に手間取って出遅れるうちに、予選2番手の#1ヨシムラSERTがトップでレーススタート。#37BMWモドラッド、#4TATIベルリンガー、#333VRD IGOLエクスペリエンスが続き、優勝候補のひとつであるYARTヤマハは15番手あたりからレーススタートしますが、スタート直後に多重クラッシュが起こってセーフティカーが介入し、レースは一時中断という大波乱。炎上したマシンの下敷きになったライダーを救助したとして、#18SAPEURS POMPIERS/ヤマハのヒューゴ・クレアは、レース後にEWCスピリットトロフィを獲得しました。
レース再開後は、TATIベルリンガーとヨシムラSERTがトップ争いを繰り広げ、スタートに出遅れたYARTヤマハがこの2台を追走。そこからTATIベルリンガーが遅れ始め、YARTヤマハとヨシムラSERTが3番手以降を引きはなしての激しいトップ争い。2~3時間を過ぎる頃に、TSRホンダ、SRCカワサキが3番手争いにつけ始めますが、その後、SRCカワサキはブレーキトラブルで、TSRホンダはガス欠で後退。有力候補のひとつであるBMWモトラッドも1スティント目に転倒を喫して早々とピットインし、トラブル修復に時間がかかって、ほぼ最後尾からレースを再開しています。
鈴鹿8耐ならレースが終わろうとする8時間経過頃には、ヨシムラSERTが独走をはじめ、YARTヤマハが追走、その後方にTSRホンダ、一時は10番手あたりにポジションを落としたSRCカワサキが4番手あたりにつける展開。BMWモトラッドやSRCカワサキのタイムロスはあったものの、サーキットが暗くなり始め、生き残りがかかった時間帯に入ると、有力チームがひとつずつ脱落していく、世界耐久らしいレース展開となっていきます。
この8時間経過時点での順位によって、ボーナスポイントが発生。下の表中「BNS」の欄が、そのボーナスポイントです。
ヨシムラSERT、YARTヤマハ、TSRホンダがトップ3につける展開が崩れたのは10時間を過ぎた頃。2~3周遅れでヨシムラSERTをチェイスしていたYARTヤマハがエンジントラブルでピットイン! どうやらバルブまわりのトラブルだったようで、ピット内ではエンジンが降ろされ、修復作業が続くものの、ダメージが収まることはなく、そのままリタイヤ。なんと優勝候補の一角であるYARTヤマハが、予選ポールポジションの5ポイント、8時間終了時2番手の9ポイントの、計14ポイントでル・マンから姿を消すことになります。
これで11時間終了時のポジションは、ヨシムラSERT、4周遅れでTSRホンダとSRCカワサキが同一周回、7周遅れでボリガースイス/カワサキ、その2周後方に10時間かけて5番手まで追い上げてきたBMWモトラッドがつける展開となりました。
しかし、このヨシムラSERT、TSRホンダ、SRCカワサキ、BMWモトラッドという上位陣の顔ぶれも崩れてしまいます。次の波乱は、なんとTSRホンダ! 18時間を超えた日の出の頃に、TSRホンダのCBR1000RR-Rに電気系トラブルが発生し、30分ほどのピットストップでタイムロス! 10位あたりまで後退し、そこからまたポジションを回復しては、マイナートラブルでペースダウンと、思うようにペースを上げられないままの走行となってしまいます。
これでポジションはヨシムラSERTを先頭に、序盤のトラブルを挽回してきたSRCカワサキ、BMWモトラッドがトップ3に。この順位が最後まで崩れることはなく、ヨシムラSERTが3時間目から首位の座を譲ることなく、855周回/24回ピットストップして、開幕戦ル・マン24時間耐久を初制覇! レースウィニングポイントに加え、公式予選、8時間終了時、16時間終了時のボーナスポイント、そして公式予選2番手で、フルポイントに1ポイントだけ足りなかったものの、64ポイントを獲得。ほぼ完全勝利と言える見事な勝利でした。
もちろん、スズキ=SERTはル・マンを何度も勝っていますが、スズキ本社のレースグループSRC(=スズキ・レーシング・カンパニー)、そしてヨシムラとジョイントしての新体制での初優勝、という意味です。
加藤陽平 ヨシムラ テクニカル ダイレクター
「SERT、スズキ、そしてヨシムラという大きな看板を背負ってのレースだけに、大きな責任はありますが、この優勝はヨシムラとSERTのものだけじゃなくて、スズキとのコンビネーションでの勝利です。大きなプレッシャーの中でのレースでしたが、優勝できたことで報われた気分です。じっくり入念に準備して、チーム全員で戦ったレースでしたね。この優勝はすごく重要。世界耐久は激しく、そしてやりがいのあるチャンピオンシップ。SERTが勝ち得たナンバー1の座を守り抜くのが、私たちの目標です」
世界耐久第2戦は7/17、ポルトガル・エストリルでの12時間耐久です。
FIM 世界耐久選手権 開幕戦 ル・マン24時間耐久レース
6月12~13 フランス・ルマン ブガッティサーキット
優勝 ヨシムラSERT MOTUL 855Lps
2位 WEBIKE SRCカワサキTRICKSTAR -8L
3位 BMWモトラッド -5L
4位 National Motos ホンダ/SST -12L
5位 BMRT 3D MAXXESS NEVERS カワサキ/SST -2L
6位 No Limits Motor Team スズキ/SST -1L
7位 VRD IGOL EXPERIENCES ヤマハ -1L
8位 ERC Endurance Ducati -7L
9位 F.C.C. TSR ホンダ FRANCE -3L
10位 PITLANE ENDURANCE-JP93 -4L
写真/EWC スズキ TSRホンダ ヤマハ 文責/中村浩史