文:小松信夫
ヨーロッパで「CB125R」とともに併売されている「CB125F」
CB250Rと共通のスタイルと車体に加えて、今年モデルチェンジで新たにDOHCエンジンを搭載し、高精度なSFF-BPフォークも採用、さらに完成度が高まった125ccスポーツのホンダCB125Rは、ヨーロッパ各国でも販売されている。
しかしヨーロッパ向けには、CB125Rに加えてもう1台の125ccスポーツとして「CB125F」が存在しているが、こちらは日本では販売されていない。
125ccのロードスポーツという点で両車は同じだが、エンジンはRの水冷DOHC4バルブに対してFはシンプルな空冷OHC2バルブと全く別物。車体周りは「R」は250と共通のフレームに倒立フォーク、モノショック、前後ディスクブレーキでフロントはラジアルマウントキャリパーだが、「F」の車体は正立フォーク、リアツインショックというオーソドックスな造り。「F」のブレーキもフロントはディスクだけどリアはドラムだ。
ホイールサイズも「R」は軽快さ重視の前後17インチ、「F」は安定性重視の前後18インチ。スタイリングでも、細部までこだわって美しさとスポーティさを表現した「R」、強い存在感を持ちながら奇を衒わない質実な造りの「F」と、あらゆる部分で対照的。
それは、CB125Rが純粋なスポーツバイクなのに対し、CB125Fが生活のための道具、扱いやすく質実なシティコミュータとしての完成度の高さ求められているからだ。
CB125Fは2020年秋、2021年モデルとしてフルモデルチェンジしている。従来型は中国で生産されていたが、この新しいCB125Fはホンダがインドで販売しているSP125とほぼ同じものとなった。
販売競争の厳しいインド市場向けのSP125は、シンプルで粘り強い特性を持ち、信頼性が高く、しかもフリクションロスを徹底的に小さくした高効率なeSPエンジンで、燃費も良くユーロ5規制もクリア。
LEDヘッドライトに多機能液晶メーターと装備も現代的で、センタースタンドやコンビブレーキも採用して使い勝手も良い。そしてこれらは、ヨーロッパで要求される実用性、経済性も満たしているわけだ。価格もCB125Rが4749ユーロなのに対し、CB125Fは2/3以下の2799ユーロに抑えられ、コストパフォーマンスも優れている(もっとも、SP125のインド現地価格よりはかなり割高だ)。
とはいえ、CB125F=SP125ではなく、細かな差異はある。そもそもCB125Fは生産地がインドではなくイタリアだ。正確にはパーツがインドから供給され、組み立てをイタリアで行うという方式のようだ。
具体的な相違点でいえば、まずSP125の車体左側のリアサス後方には、「サリーガード」と呼ばれるインド女性が着用する民族衣装・サリーの巻き込みを防ぐためのパーツが装着されているが、これはCB125Fにはない。また、SP125はまるでスーパーカブのようにチェーンがフルカバーされているが、CB125Fはチェーンが露出する開放型で、上側のチェーンガードのみを装着している。
また、SP125のシフトペダルは踵で踏んでもシフトアップができる形状だが、CB125Fでは一般的なスポーツモデルのように爪先でのみ操作する形状だ。いずれもヨーロッパでの使い方や道路環境に対応するための変更だ。
カラーリングもSP125の派手なグラフィックが目立つものに対し、CB125Fは落ち着いたソリッドカラーで、同じデザインでありながら、かなり印象が異なって見える。
シティコミューター・CB125Fの実用性は、かなり高いレベルにあるのは確かだ。なら日本でも売ればいいのに? という声も出てきそう。しかしイタリアで生産されているCB125Fをそのまま持ってくると、おそらく価格がかなり割高になってしまうだろう。
ただそれは、GB350のようにインド生産にすればクリアできるかもしれない。しかし実用性抜群の原付二種、しかも日本の道に最適化され、圧倒的な支持を集める「スーパーカブ110」が存在している限り、実用車としてCB125Fが入り込む余地は無さそうだ。
文:小松信夫
ホンダ「CB125F」(欧州仕様・2021年モデル)の主なスペック
全長×全幅×全高 | 2015×750×1100mm |
シート高 | 790mm |
車両重量 | 117kg |
エンジン形式 | 空冷4ストOHC2バルブ単気筒 |
総排気量 | 124cc |
圧縮比 | 10.0 |
最高出力 | 10.9PS/7500rpm |
最大トルク | 10.9Nm/6000rpm |
燃料タンク容量 | 11L |
変速機形式 | 5速リターン |
キャスター角 | 26° |
トレール | 92.4mm |
タイヤサイズ(前・後) | 80/100-18・90/90-18 |
ブレーキ形式(前・後) | Φ240mmディスク・Φ130mmドラム |