文:山口銀次郎、小松信夫/写真:柴田直行/モデル:葉月美優
ドゥカティ「スクランブラー・ナイトシフト」インプレ・解説(山口銀次郎)
走行フィーリングも、らしさ満点! タンデムライディングもお手のもの
多彩なアレンジで個性豊かにそれぞれの世界観を造り上げるスクランブラーシリーズに於いて、803ccエンジン搭載のミドルレンジにニューモデル「ナイトシフト」が登場した。
「夜の走行」をイメージするだけあって、ブラックアウトした装いは徹底して闇夜に溶け込む佇まいを演出し、ラフでポップな陽気さを漂わせるスクランブラーシリーズの中ではクールなイメージが強いキャラクターに。
一文字に近いワイドハンドルにはバーエンドミラーを装着し、薄型でフラットタイプのデュアルシートにサイドカバーを装備、艶消しブラックペイントが施されたそれぞれの専用パーツで組み上げられたカスタムメイド感溢れるパッケージとなる。
スクランブラーというバックヤードカルチャーのエッセンスを投下したシリーズモデルは、そもそも正統派スポーツモデルから導き出されたスタイルを基調としているが、ナイトシフトが示す方向性はどことくなく正統派スポーツモデルに通じる硬派な印象を与える。
それはある意味順逆といった出生ではないかと若干違和感を覚えるものだったが、実際に試乗してみるとそれは紛うことなくスクランブラーならではの世界観に満ちていた。
強面の印象とは裏腹に、取っつきやすく馴染みやすい、ポップで陽気な気分にさせてくれる魅力はそのままなので、スクランブラーがベースである必然性をひしひしと感じてしまった。
攻める印象のハンドル設定だが、強制されるような乗車姿勢ではないアップライトなものとなっている。
400ccクラス並みの車格と車重は扱いやすく、それこそ800クラスのモデルと思えぬ軽快さが嬉しい限り。また、角の取れたマイルドなエンジン出力特性は、低速域を多用する街乗りに於いてもストレスを感じることはない。
スポーツマインドが活きるLツインが、これでもかとフレンドリーに変化し、扱いきれる領域で充足感を与えてくれる、それはとても贅沢なことではないかとしみじみ思ってしまった。
ワイヤースポークとグルーブの深いタイヤの組み合わせは強力なインパクトを与えるが、ワインディングではとても素直なハンドリングをする。
フロント18インチホイール設定ながら、コンパクトな車格とリア17インチ&180のワイドなタイヤ設定で、ドッシリ落ち着きつつもクセのないコーナリング特性をみせる。
それはタイヤのグリップ力頼みでグイグイ向きを変えるのではなく、車体を翻しパワーを掛けるといったアクションで、ライディング特性が変化していくのはスクランブラーならではのもの。
ソロライディングが似合うモデルと思うかもしれないが、タンデム走行時の包容力はさすが大型車といったところ。低速からトルクフルなチカラが湧き上がるエンジンは、ソロライディングと遜色のない淀みない加速をみせてくれた。
小ぶりなシートは、タンデムライダーとの密着度は高めで、自然とバランスの良い一体感を生んでいた。
シャープなフラットシートはクッション性が高いとは言い難いが、100km以上を一気に走行しても、さほど苦に感じることはなかった。程よい硬さと、表皮のグリップ力が絶妙なのだろう。
試乗すると、スクランブラーの魅力に溢れているという印象が強かった。けれども各部のこだわりのパーツチョイスが、スタンダードモデルでは味わえない世界観を創り出す。
カフェレーサーの様にストリートモデルでパフォーマンス向上とスタイリングに凝るといった遊び心がナイトシフトにも見え隠れし、他モデルと差別化するうえで大きなファクターとなっている。