文:山口銀次郎/写真:山口銀次郎、西野鉄兵
ヤマハ「アクシスZ」インプレ(山口銀次郎)
多くのシステムや可能性溢れるデザインなどチャレンジングで意欲的なモデルとは一線を画す、歴史を重んじつつターゲットに的を絞ったソリッドかつシンプルさが魅力のアクシスZ。
高機能よりオーソドックスさ、奇抜さより馴染みやすさ、虚勢を張ったサイズ感よりも小ぶりで軽快感、全て125スクーターに求められるユーザーの声をカタチにしたかの様な徹底ぶりである。
シンプルな造りの恩恵は所有しやすい手軽さとなって現れるが、無論その価格以上のポテンシャルを高次元でバランスさせ、オーナーの所有感を満たしてくれることだろう。
1980年代後半から一気に飛躍したスクーター文化の中で、90年代初頭に誕生したアクシス・シリーズは、50ccのいわゆる原付とは異なる82ccエンジンを搭載し「原二スクーター」として高いポテンシャルを誇っていた。
それは、人気絶頂のスポーツスクーターJOGシリーズのノウハウが活きる車体構成を踏襲し、50ccエンジンでは太刀打ち出来ないハイパワーを発生させていた。
当時原二スクーター界では独壇場となっていた99ccエンジン搭載のスズキ・アドレスV100へ真っ向勝負を挑んだ形となり、パワーに勝るアドレスに対しコンパクト&軽量車体による軽快なステップワークで対抗していた。
当然、結果が残るレースではない、ストリートレベルのイメージでしかないが……。ただ当時、アドレス90ユーザーだった私にとっては、そんな生で感じた街道スクーター事情の構図だったので、つい知った様に語ってしまった。
さて、当のアクシスZは、2ストエンジンの90時代からグランドアクシス100へスケールアップし、そこから時を経て124cc4ストエンジン搭載で復活を遂げたモデルとなっている。
歴代アクシスシリーズが持つ高い運動性能や利便性を引き継ぎ、さらにソリッドかつシンプルな造りのモデルとしての立ち位置を確立している。
紆余曲折あり辿り着いた確固たる個性は、現在の道路事情にマッチするベンチマーク的存在といっても過言ではないだろう。一昔前までの125スクーターのコンパクトさはないが、より高い安定性や海外での車格への要望に応えるカタチで、他メーカーも合わせ現在の主流のサイズ感を鑑みると軽量&コンパクトな印象が強い。
これはスペック数値を比べてのものではなく、現在では少数派となった10インチホイールによるクイックなハンドリングによるフィーリングによるものだと思う。
ミニスクーターの様な強列な回頭性とクイックリーなハンドリングは、原二スクーターでは秀でているといえるだろう。正直、先代や先々代よりもボリュームアップしたボディに軽快感を期待していなかったものの、スポーツスクーター(勝手にジャンル付けしているが)特有の深いバンク角も確保され、タイトなワインディングに於いて軽快なステップワークを踏む最大の要因となっていた。
法規上走ることができない高速道路以外での走行シーンでは、不満を一切感じない高い安定性をみせ、それでいてハンドリングはスポーティ、そんなバランスの良さは熟成を重ねてきたからこその秀逸さといって良いだろう。
褒め倒し状態で申し訳ないのだが、さらに特筆すべきポイントとして乗車ポジションを挙げたい。シートとの距離が近すぎずやや高めの位置のハンドルは、自由度の高いシートとのセットで、状況や乗り方に対応する設定となり、街乗りから峠道、はたまた往復150キロの長距離走行をしても、疲労感を与えず俊敏な操作が可能となっている。
最後になるが、ゆったり滑らかな曲線を描く肉つきの良いボディデザインは、これまた他モデルと並べてみると過激さもなければ古臭さもない、乗り手を選ばない丁度良いポジション設定を築くものとなり、乗りやすさも含めると割り切った「大衆性」に特化しているといえよう。