文:濱矢文夫、小松信夫、アドベンチャーズ編集部/撮影:柴田直行
ホンダ「CRF1100L アフリカツイン アドベンチャースポーツ ES DCT」インプレ・解説(濱矢文夫)
アドベンチャー心をくすぐるギミックと贅を尽くしたタフネス仕上げが魅力
目の前にすると、スタンダードモデルの18Lから24Lと容量を増やした燃料タンクからなるボリュームに圧倒されるけれど、ローポジションで高さ810mmのシートにまたがると、身長170cmでも両足のしっかり力が入れられる拇指球あたりが届いて、怖気づいた気持ちがやわらいだ。クラッチレバー操作がいらないDCTだから、右手親指で「D-S」と書かれたスイッチを押すとガチャっと音がしてギアが入る。あとはスロットルを開けるだけでスルスルと進む。
ラインアップ中でフル装備といえるDCTにストロークスピードや走行状態に応じて瞬時に減衰力を最適化するショーワ製電子制御サスペンションがついたモデルだ。
6つあるライディングモードの中から「グラベル」を選択して、いきなり土と小さめの石が混ざったフラットダートから走り出した。モードによってエンジンの出力特性やABSなどが変化することを具体的にどうだと考える以前に、滑りやすい路面でも実にコントロールしやすいことがすぐに分かり、ついついこのシチュエーションを積極的に楽しんでいる自分がいた。
DCTの良いところは、どんなにゆっくり走ってもエンストしないところ。このシステムが誕生して以来、制御の巧みさがアップして、走行状況に合わせた判断の的確さは見事といえるレベルになった。
オートマチックから左手の+‐ボタンを使ったマニュアル操作にも切り替えられるけれど、個人的にはそうする必要を感じなかった。それはオートマチックモードであっても、+‐ボタンで能動的にシフトチェンジできるから困らない。ダウンしたギアからまたスロットルを開けると適正にシフトアップ。
この手軽な便利さはアフリカツインをより魅力的なものにしている。一般的なオートバイより人間がやる仕事が減り、ダートで重要な走行ライン選択やスライドのコントロールも集中できる。走る場所が舗装路に移ってもネガティブな要素がない。
長らくライダーをやってきたことで固まってしまった、スポーツ走行をするならマニュアル操作じゃなければいけない、という観念が溶け落ちてしまった。
アフリカツインはフロントに21インチ外径のワイヤースポークホイールを履いた、オフロード走行にこだわった機種。未舗装路を無理なく通過するのではなく、積極的に走ることを考慮した。
こうやってダートを走ると、小さいとは言えない車体を安心して自由自在にコントロールできてしまう。それはあなたがダート走行に慣れたライダーだからだ、と指摘されるかもしれない。いやいや客観的にもダートでの扱い安さはトップクラスだ。
アスファルトの上では、ライディングモードに連動して4つのサスペンションモードから電子制御サスペンションが選択をしてオプティマイズ。ダートを走っていたときの初期の沈み込みが柔らかく深く入るものから、コシが出て、減速でのノーズダイブからリーンに入るときの動きや、旋回していく動きが見合ったものに変わる。
それを支えているフレーム、スイングアームはCRF1000LからこのCRF1100Lにモデルチェンジしたときに大幅な見直しをうけたもので、どの速度域でも走りのレベルは向上したとはっきり分かる変化だ。
高速走行のスタビリティは高く、ウインドプロテクション能力と合わせて走る距離を伸ばしてもライダーの疲労を軽減させてくれている。
OHC4バルブ並列2気筒エンジンは、CRF1000Lの998ccからストロークを伸ばし84cc増えた1082ccとなったが、ただ排気量を増やしただけではない。細部の見直しでこのDCTを採用したエンジン単体で2.2kgも軽くなった。
排気量が上がってパワーを増したというだけでかんたんにすませられないほどの変化がある。低回転域から出てくるツキの良いトルクとダダダダと押し出すような力強い加速。スロットルバルブと物理的に繋がっていない電子制御スロットルは右手と直結したようなリニア感。トルクがありながら低回転域でギクシャクする動きが抑えられて、そこから高回転域まで右手の動きだけでスムーズに繋がっていく洗練された加速の気持ちよさ。
スポーティーに走りたいならオートマチックのまま「D」より高回転で回ってシフトチェンジするようになる「S」モードに切り替えるといい。
ダートに軸足を置いた機種よりオンロードでの走りが軽快で、快適。デュアルパーパスとして中庸を狙ったものより、ダートでの走りはハイレベル。
ホンダ独自の技術と、制御を使いながら欧州製アドベンチャーモデルの上位機種と比べても引けを取らないものになっている。走りのイージーさは1、2を争うものだ。