文:濱矢文夫、小松信夫、アドベンチャーズ編集部/写真:柴田直行
ヤマハ「テネレ700」インプレ・解説(濱矢文夫)
ロードスポーツのエンジンをベースにまったく異なる個性に昇華
もしあなたがオフロードを走ることを楽しんでいるなら、もしくはこれから積極的に不整地に飛び出して楽しみたいと思っているなら、このテネレ700は最良の友になるだろう。
現在、広い意味でアドベンチャーとはデュアルパーパスツーリングモデルのことを言っている。しかし本来の意味ではアドベンチャー=冒険だ。パリ・ダカールラリー(今のダカールラリー)で道のない砂漠を駆け抜けたレーシングモデルにルーツがある。そんなことをあらためて思わせてくれる機種だ。
MT-07の水冷DOHC並列2気筒エンジンをダブルクレードルフレームに積んで、フロント21インチ、リア18インチのオフロード車定番のワイヤースポークホイールにチューブの入ったタイヤを履く。成り立ちからだけでなく、メーカーも最初からオフロード走行性能をアピールした。
正直に言うけれど、専用設計ではない上下方向に長いオンロードモデルからの流用したエンジンを使って、いくら特性を変えたとしてもオフロードバイクとしてどうなんだろうという気持ちが乗る前にはあったが、結果としてそんな心配はいらなかった。
公道を乗ることができるオフロードバイクをトレールモデルやオン・オフモデルと呼び、軽い250cc以下の排気量が主流。これは明らかにそれらより重量はあるけれど、生半可な250トレールよりオフロード走行性能は高い。210mm、200mmと、本格派なホイールトラベルがある前後サスペンションに最低地上高は240mmを確保。もうこれだけで、優れた走破性が想像できてしまう。
ちなみに昨年惜しまれつつカタログ落ちになった、同じヤマハの名車、セロー250のホイールトラベルは225/180mm。最低地上高は285mm。比較すると2気筒688ccがどれだけ頑張ったかがわかる。
実際にダートの道を走っているときの感覚はオフロード車そのもの。前輪にオンロードモデルのような荷重がかかっておらず、コーナーへの進入ではライダーが前に重心をかけてフォークを縮ませてやるとグリップが高まり小さくスムーズに曲がれる。
こうしていると、たとえリアタイヤがグリップを失いブレークしても怖くない。それができるライダーならボタンを長押ししてABSをキャンセルした方がいっそう振り回せておもしろさが増す。車体と外装は、ちゃんとライダーが前後に動いて荷重コントロールをしやすいカタチ。
ちょっとしたギャップで大げさに飛び上がってみても、足廻りは剛性があって、初期の沈み込みが速く、奥に向かうにつれ減衰を強めて、ビョンと勢いよく戻らないダンピングの前後サスはへこたれたところを感じさせずにショックを吸収。最初は奇妙に見えた高いところにセットしたエンジンにより重心が高く、オフロードバイク的な軽くてヒラヒラとした動きを出すことに貢献している。
もう、ここまでくると、ちょっとオフロード性能にこだわってみた、というレベルではなく、正面からがっぷり四つになって不整地走行に向き合った、ポテンシャルの高いオフロードバイクと言っても言い過ぎではないだろう。主流と言える、オンロード走行をメインに据えて、オフロード走行をある程度担保したアドベンチャーとは一線を画す。その分、シートは低くないけれど、土の上を走る楽しさを知っている人はそれに慣れているはずだ。
エンジンはMT-07とは違い、低回転域でスロットルを開けたときのトルクのクリック感がしっかりありながら、その領域でのスロットルを動作させる幅が広め、低スピードでの制御のしやすさ、ギャップなどで急に前輪の荷重を抜きたいときのスロットルアクションに応えてくれる。
テネレ700は、オフロードを基本に、遠くまで高速道路を自走して林道などにいく場合の余裕のパワーとウインドプロテクション能力を備えていると思えばいい。リッターオーバーアドベンチャーより間違いなく軽くて、自由自在に動かしたくなるサイズも絶妙。
昔から国内メーカーの中でもっともオフロードバイクに力を入れてきたヤマハらしい選択。日本市場ではニッチだけど筆者も含めて「待ってました」とこのゾーンにどハマリするライダーは確実にいる。