文:濱矢文夫、小松信夫、アドベンチャーズ編集部/写真:柴田直行
BMW「F850GS アドベンチャー」インプレ・解説(濱矢文夫)
見た目以上に扱いやすくベースの良さが活きている!
横から見ると流れるようにラインがつながった細身だけれど、真正面にまわると、横幅の広さに圧倒される。その太さだけだとトップモデルの「R 1250GSアドベンチャー」と大差ないのではないかというくらい。
搭載しているエンジンは1254ccの水平対向エンジンではなく並列2気筒853ccである。データを確認すると車重は1250より約20kg軽い256kg。ミドルアドベンチャーとして軽いとは言えないものだ。
BMWの「GS」が持つブランド力は素晴らしく人気も高い。旗艦モデルは常に評価が高く、各メーカーが比較の基準にしているくらいの存在。うがった見方して、ミドルクラスだとはいえ、そんなキラーブランドの機種をどうしたかったのかと目の前にしてしばらく考えてしまった。
案ずるより産むがやすし。乗ってみないとわからないと、走り出してそれほど時間がかからずに、いぶかしんでいた気持ちはスッキリなくなった。眺めたり押したり引いたりしていたときの大きさと重さが、走り出すと気にならない。
乗った車両が前後にブロックタイヤのミシュラン・アナキーワイルドを履いていたので、ダートから走行をスタートした。滑りやすい砂利が浮いた硬い路面。やわらかめの土が掘れて凸凹した路面。地面いっぱいに草が生えて滑りやすそうな場所。
そこで「さすがGS」と唸ってしまった。ブロックタイヤでグリップが良いというのもあるけれど、砂利で滑りやすいところでも、この重さがありながらフロントが逃げずに積極的にリーンさせていける。
フロントに21インチホイールを履いているのだから当たり前と思うかもしれない。でも大径ホイールは走破性において威力を発揮するけれど、フラットな路面で直進から曲げていこうとする動作においては、より小径の19インチホイールとくらべて大きな差はない。
大容量23Lの燃料タンクで、ライダーが前に重心移動する動きができないことを考慮しながら前後の荷重バランスを最適化しているのだろう。ステアリングヘッド角度が62度とオフロード専用車並なのも見逃せない。
とにかくダートをおとなしくクリアするのではなく、積極的に走らせようとしたことがうかがえる。それも150kg以下の250ccより100kgも重い車両でやってのける。歴史あるGSシリーズで培ってきたノウハウがあるからに違いない。
走行モードをエンデューロにするのが最もしっくりくるけれど、基本のディメンションが決まっているからか、レインやロード、最もスポーティーなダイナミックでも無理なく走れてしまう。標準で装備されているASC(オートマチック・スタビリティ・コントロール)がオフだと、リアタイヤを思いっきり振り回せて楽しい。かなり大胆に遊ばないと転ぶ気がしない安心感。
メーカーホームページに使われている写真が圧倒的にオフロード走行シーンなのが理解できた。狭い林道でのUターンも、エンデューロモードで、低回転域でトルクとヒット感を出しながらスロットルの動きに機敏すぎない特性と、逃げにくい前輪を軸に安心して想像より小さく回れる。
それでいて、オンロードもなかなかのやり手なのだから見上げたものだ。走行モードとリンクしてASCやABS、そしてリアショックのダンピング設定がリンクするダイナミックESAを標準装備している。そのこともあり、ドライの舗装路でこのタイヤのままロードモードだけでなく、もっとハードなダイナミックモードでも気持ちいい走りができた。
フロント21インチなのに「あれ、19インチだったかな?」と思わせるくらいキビキビとしたコーナーリング。変わったサスペンションセットの違いは明らか。
テレスコピックフォークにチェーンドライブという慣れ親しんだコンポーネンツなので、最初からすんなり操作していける。その気になって、ワインディングで少しアタックをしたら、減速でタイヤブロックが潰れてグニャグニャとしながら滑る。そのまま曲がる体制に入ったけれど、これ以上は危ない。そういうインフォメーションが手に取るようにわかる。
走行モードによって明確な特性変化が感じられる並列2気筒エンジンは、いつでもどこでもフレンドリーさを失わない。スロットルを大きく開けて、最高出力95PS、最大トルク92Nmのパワーをフルに使うおもしろさ。
メーカーはこのパッケージの中で巧みさが光る最大の仕事をしたと思わせる走り。個人的にもR1250GSアドベンチャーとどちらがいいか悩むレベル。
決してディフュージョン版のGSではない。Fの価値観を正義だと思わせるかなりの魅力。