文:山口銀次郎、小松信夫、アドベンチャーズ編集部/写真:柴田直行
KTM「890 アドベンチャー」インプレ(山口銀次郎)
エルゴノミクスへの拘りが相乗効果をもたらす!
常にレーシングパフォーマンスを意識して開発に至るKTMの各種モデルは、乗り手を選ぶようなハイキーなキャラクター設定の印象が強いことだろう。ただし、アドベンチャーモデルに於いては、あらゆる使用状況を想定した扱いやすさが際立つ設定となり、人車一体感そのものが大きな武器となっている。
また、開発で最も重要視されるあらゆるシチュエーションをものともしない突破力は、高次元の一体感があるからこそ成立するのではないだろうか? と、試乗してつくづく思わされてしまった。
ちなみに、パッケージングの自由度が高いハンドル位置とシートとハンドル間の距離など、「ゆったりとした乗車姿勢」と一言で済ませてしまいがちだが、各メーカーごとに趣が異なり、その操作感はキャラクター付けを左右させるほど重要なファクターとなっている。
890アドベンチャーに実際に試乗するとすぐに解るのが、アッパーミドルとはいえ900ccに迫る排気量を誇るモデルにも関わらず、身体へのフィット感がバツグンで、車体のボリューム感がマヒするほどだった。
ハンドルの角度や高さ、シートの厚みなど自分の身体にアジャストしているワケでもなく、ホールド感も含めオーダーメイドの様なフィット感を生んでいる。
たまたま自分の体躯(身長177cm)に合っていたのかもしれないが、パートごとにレーシングパーツに近いものをチョイスし、その構成自体もレーシングマシンを彷彿とさせるもので、乗車して操作系に目を下ろすと優雅なツアラー的要素を感じることはないだろう。
レーシングパフォーマンスに拘り続け、ラリーやモトクロス、はたまたエンデューロ等の第一線で活躍し数多くのタイトルを獲得、その技術を市販車に惜しみなく投下するメーカーだからこその意匠なのだろう。
ラグジュアリーマシンと異なるコンペモデルの様な雰囲気をまとうが、ライダーにとっては特別なステージが用意されているワケでも、わざわざ荒れ地に分け入るのでもないので、少々気構えてしまうのが正直なところ。
ただし先にも述べた様に、バツグンのフィット感を見せるので、一般道を軽く流すといった際でも馴染むまで時間を要さず、長年連れ添ったバイクの様に様々な情報や状況を手の内に出来る感覚は新鮮だ。
さらに、ソリッドなボディデザインによる車体のまとまりも格別で、無駄な肉がないアスリート気質であり、アッパーミドルクロスだからこそのハイパフォーマンスエンジンと軽量な車体を高次元でバランスさせている事が解る。
思わず操縦性についての扱いやすさに熱が入ってしまったが、ロードスポーツモデルをルーツにするVツインエンジンの奥深い味付けにも唸らせられた。Vツインエンジンは、極めて低回転域から粘りあるトルクフルなチカラを発生させ、渋滞路や荒れた路面を慎重に走る際にも頼り甲斐があるのだ。各モード切替で性格も大きく変化するが、根底にある性格は大らかで粘り強いという印象が強かった。
もちろん、モードにもよるが鋭い加速力を欲する時のパンチ力は、リッタークラスと遜色ないもので、エンジンの吹け上がりの鋭さは目を見張るものがある。当然、攻め立てる様な走行する際にも、良く馴染んだ操作系のポジションが活きてくると言える。むしろ本領発揮といったところか。