文:山口銀次郎、小松信夫、アドベンチャーズ編集部/写真:柴田直行/モデル:葉月美優/協力:ウラルジャパン
ウラル「ギアアップ」インプレ(山口銀次郎)
唯一無二のサイドカーメーカーが放つ、圧倒的なワイルド仕様のサイドカーとは⁉
オートバイがもつ軽快さを犠牲にしたサイドカーは不整地での適応力はあるのだろうか? 大きな舟(カー)やそれを支える強固なフレーム、そしてライダーも加わった車重で400kgを優に超え、さらに横に大きく張り出した側輪は大きな抵抗になるはず。
そんなサイドカーでの不整地や悪路での走行をイメージするのは難しいかもしれない。オートバイならではの風を全身に浴びるオープン感覚と、落ち着いた走行性能は、優雅なドライビングがイメージに合うことだろう。
当然、多くのサイドカーユーザーは、パッセンジャー(カー側に乗るライダーのこと)を快適にエスコートし、他の乗り物にはない開放的かつエンジンの動きを直に感じる躍動感を満喫していることだろう。
ところが、不整地や荒れた路面がメインステージと言わんばかりの装備と、堅牢な造りを誇るサイドカーがある。ロシアのウラル製サイドカーだ。
サイドカーのみを製造販売するウラルは、唯一の完成サイドカーを販売するメーカーとなっている。
ウラル全てのモデルは、ミリタリールックとタフな造りに拘り、長い歴史の中で大幅なモデルチェンジをせずに、環境性能や使い勝手、タフネスさを高めるといった熟成を重ね現在に至っている。
今回紹介するのは、1輪駆動と2輪駆動を切替え可能なウラルを代表するモデルの『ギアアップ』だ。
単にミリタリールックというのではなく、第2次世界大戦中からその姿を変えずにいるので、リアルミリタリービークルと言っても過言ではないだろう。
戦時中の時代背景や用途からすると、不整地での使用が当たり前であり、多少の荒れた場所での走破性も備えていなくてはならなかった。
現在でも未舗装路が多く点在するロシアでは、コンフォータブル志向の性能よりタフさと走破性が求められている。
グリップ力が高い舗装路となる一般道や高速道路では、構造上1輪駆動(通常のサイドカー同様)にて走行しなくてはならないが、ぬかるみや砂地等を走破する場合に一時的に2輪駆動に切り替えて走行することが出来る。2輪駆動は常用するのではなく、エマージェンシー用と捉えておくのが無難だろう。
ただし今回は、ブロックタイヤを装着したオフロードバイクでも走行が困難であろうと思われる砂地を、2輪駆動での走行を試みた。
ギアアップのタイヤは前後側輪とも共通の19インチタイヤで、溝が深いもののブロックタイヤとは言い難いロードタイヤを装備している。
正直、踏み固められた未舗装路でなら相性が良さそうだが、本格的なオフロード走行には不向きといえるトレッドパターンとなっている。
小砂利が混じる砂地は、駆動力を奪い簡単に前進を阻むほど車輪を沈めてしまうものだが、停車状態から多少スリップするものの確実に車体を押し進め、確実に走行をすることが出来た。
ターンも、舗装路での2輪駆動時には舵切りをする前輪を押し出すようなアンダーステア気味になってしまうが、不整地では程よく駆動輪がスリップしているので、舗装路よりも素直なターンを可能にしてくれた。
その走破力は、クルマに例えると不整地での後輪駆動のみと四輪駆動の差ほど、明らかな安心感と推進力をもっている。
ただ、クルマの後輪駆動とサイドカーの2輪駆動では「同じでは?」と思われるかもしれないが、それぞれ駆動する車輪に掛かるライダーを含めた車重がクルマと比べて圧倒的に軽く、さらに前輪の抵抗も少ないので比べ物にならない走破力を生んでいるのだ。
また、パッセンジャーがいる状態や錘(ライダー1人乗車の時におススメ)がある状態、そしてライダー1人の場合でも走破力に変化はなかった。
不整地や荒地走行する機会が稀な日本の道路事情だが、本格的なタフネスさを所有する喜びに浸りつつ、日々の走行を楽しめる実用性に満足出来るギアアップは、とても魅力溢れるアドベンチャービークルとなっている。