ヤマハが求めたのはレースで勝てる市販車
スポーツと言ってもただのスポーティモデルではない。何しろレースに出場して勝てる市販車を作るという意気込みがそのまま企画となった車両。即ち、レーサーレプリカそのものだったということだったのだ。そのルーツは1957年に開催された浅間火山レースに参戦。ウルトラライト級の表彰台を独占した伝説のレーサー、YDレーサーにまで遡る。
このYDレーサーに市販車としての性能を与え、さらにキットパーツを装着すればロードレーサーにも、スクランブラーにも変身し、上位を狙うのに十分な戦闘力も備えたモデルとしてYDS-1は登場したのである。
YDS-1の割り切りは後のバイクブーム真っ只中のレーサーレプリカよりも激しいものだったかもしれない。エアクリーナーのカバー、バッテリーカバーすら装着されず、64点にも及ぶエンジン、車体回りのキットパーツが用意され、モータースポーツユーザーを支えていったことからも、YDS-1に対しヤマハがどれほどのエネルギーを注いでいたのかが、よく分かるだろう。その甲斐あって、YDS-1がデビューした翌1960年の第3回全日本クラブマンレースでは、これらのキットパーツを装着したYDS-1が優勝を飾った。
戦闘力の高さが印象深いYDS-1だが、ツーリングマシンとしての素性も非常に高く、ゼロリターンが可能なトリップメーター、視認性の高いメーターレイアウト、スポーティで余裕のあるエンジンとハンドリングは、公道でスポーツを楽しむ一般ユーザーにも大いに受け入れられるものだった。
ヤマハ「YDS-1」主なスペック
全長×全幅×全高 | 1990×615×925mm |
ホイールベース | 1285mm |
車両重量 | 138kg(乾燥) |
エンジン形式 | 空冷2スト・ピストンバルブ並列2気筒 |
総排気量 | 246cc |
ボア×ストローク | 56.0×50.0mm |
圧縮比 | 8.0 |
最高出力 | 14.7kW(20.0PS)/7500rpm |
最大トルク | 18.6N・m(1.9kgf・m)/6000rpm |
燃料供給方式 | キャブレター(VM20) |
燃料タンク容量 | 15.5L |
変速機形式 | 常噛5速リターン |
タイヤサイズ(前・後) | 3.00-18・3.00-18 |
ブレーキ形式(前・後) | ドラム・ドラム |
当時価格 | 18万5000円 |
※この記事は月刊『オートバイ』2021年9月号別冊付録「RIDE」の特集から一部抜粋し、再構成して掲載しています。当特集のスタッフ 文:濱矢文夫、深澤誠人、宮崎健太郎/写真:小平寛、関野温、盛長幸夫、山口真利