文:中村浩史/写真:松川 忍
オンとオフの使い勝手をいいところ取りした最新モデル
そのCRF、初乗りの時には、いざ走り出したときに、スタイリングのオフロードっぽさとエンジン特性のオンロードっぽさ、そしてオフロードを走りたくなる車体のフィーリングが同居していることに驚いた記憶がある。
スタイリングは、ホンダモトクロッサーCRFゆずりのものだし、エンジン特性は低回転からトルクがあって、高回転までよく回るオンロードモデルCBR250Rそのもの。特にCBRとCRFはミッションも同一で、CBRのファイナルレシオがハイギアード、つまり高速走行向けに振っていることで両モデルの差別化を図っていた。
車体のフィーリングは、しっかり剛性のある直進安定性の高いもので、オフロードモデルによくありがちな、軽快なかわりに、高速道路の走行でややふらふらと安定感しないような動きを極力なくしていた。オフロードモデルならではの長いサスペンションストロークを持ちながら、この安定性を確保しているところに、CRFの根っこがあるように思えたのだ。
そのCRFが、17年のマイナーチェンジを受けて20年にモデルチェンジ。17年の変更では、特にエンジン特性に手が加えられ、高回転域のパワーを強化して、より高速道路を使うようなシーンでの快適性を向上させていたが、20年の変更は、ちょっとスタイリングに手を加えたかな、と思われがちだけれど、これがフルモデルチェンジ!
ABSを標準装備としながら、新設計フレームを投入して約4kgの軽量化、パッと乗りでも変更内容がすぐわかる、という変身具合となっているのだ。
内容は、17年によりオンロード適性を高めたCRFを、今度はオフロード適性を高めていくこと。
まずはエンジン特性を、日常の走行やオフロードで使用頻度の高い回転域のトルクを増したことと、従来のオンロード適性はそのままに、よりオフロードを目指したいユーザー向けに、前後のホイールトラベルをさらに伸ばした高いシート高の「タイプS」も追加している。従来モデルでは、スタンダードに加え、シート高を下げたローダウンの「タイプLD」を追加していたことを考えれば、今回のフルモデルチェンジの狙いは明確だ。
オンロード性能をキープしつつ、オフロードでの使いやすさをアップするという方向性は、ギアレシオの1~5速をローギアード化し、6速だけは逆にハイギアードに、という変更箇所に、よく表れている。
オフ経験少ないオンロード派もアスファルトの先の絶景へ!
自宅を出て国道を走り、高速道路で移動、目的地付近のインターチェンジで降り、そこからある県道を走る、という「いつもの」ルートを走ってみる。一般道では、4kgの軽量化だけとは信じられないほど軽いハンドリングが味わえる。
特に、少しバンクさせた時の軽い曲がり方は、エンジン搭載位置を上げたことやリアサスのリンク特性を変更した成果だろうと思う。
さらに街中を走ると、中回転域に、従来モデルよりもパンチがある。これはエンジンパワーだけでなく、ギアレシオの変更も効いているようで、逆に6速で低回転を使ってみると、50km/h、3000回転といったエリアでスムーズに回らない感じ。
けれどその分、高速道路を走った時には6速で、100km/hが6000回転、120km/hが7200回転といったところで、このスピード域の快適性は向上している。オフ車なんだもん、高速なんか乗らないよ、ってユーザーも多いだろうけれど、それ以上にいるであろう、高速道路を使うCRFユーザーには嬉しい変更だ。
一般道、高速道路をつないで走った山道で、いつもは立ち入れなかった、待望の林道に足を踏み入れてみる。アクセル開度が小さい時にもパンチ力のあるエンジンはストールする心配なく、轍の深い箇所も、サスペンションがゆっくり衝撃を吸収してくれて、砂利道をスムーズに進んでくれる。
よろよろ、とことこ、と進んだ先に広がる絶景は、今まで見たくても見られなかったパノラマだった! 本当に行きたい場所は、いつもアスファルトの先にある――。オンロードモデル派も、この言葉の意味を味わってみて!
缶コーヒーでもいいけれど、ちょっと味気ないから、野外ではお湯を沸かしてコーヒーを飲む。ドリップパックで充分です。
お気に入りの場所では、焚火なんて大げさじゃなくても、シングルバーナーを用意して、出先のスーパーでちょっとお高い肉でも買い込んで焼いてしまう。
野外ではカップ麺すら数倍美味しいんだから、肉の塊の美味さは推して知るべし!