文:中村浩史/写真:松川 忍
ホンダ「CRF250L」ツーリング・インプレ(中村浩史)
本当に行きたい所は舗装が途切れた先にある
私にはお気に入りの場所がある。いつも走りに行く、なにか用がなくてもも時間ができるとついつい走りに行っちゃう、自分だけのお気に入り。そうだな、だいたい片道1時間、往復で100kmも走らない距離かな。
けれど、その道すがら、なんだか気になる小道がある。方向的に、いつも走る山の向こう側が見渡せる丘があるはずなんだけれど、その方向に入ろうにも、行けない。だって、舗装が途切れてしまっているから――。
「あぁ、あの先、きれいだろうなぁ」
普段乗っているオンロードモデルでも、少しのフラットダートならば、よろよろと両足をつきながら徐行して行ける。でも小道の先は、意外と先が長い。行きたい、でも行けない、そんな気持ちがずっと続いている。
ちなみに国土交通省の発表資料によると、日本の道路の舗装率は、簡易舗装を含めて82.4%!(2018年)。ただし、これは高速道路、一般国道、都道府県道、市町村道のすべて合わせての数字で、このうち高速道路は100%、一般国道は99.5%。
けれど、僕らオートバイ乗りが大好きなワインディングって、都道府県道や市町村道が多いものだ。その舗装率はぐっと下がる、ってことはダート率がぐっと上がるのだ。
お気に入りのコースを走っていると、自宅を出て国道を走り、高速道路で移動、目的地付近のインターチェンジで降り、そこから走るルートには、もう朝とは違う風景が広がっている。舗装路とダートの割合で言えば、イメージ的にはもう5対5だ。
ずっと走っていく国道にはいくつも分岐があって、どんどんクルマ通りが少なくなると、冒頭に書いた「入って行きたい景色」が広がっている。この時のイメージは、舗装路とダート、ほとんど3対7。どんどん山に分け入っていくと、一本メインに舗装路が伸びていて、その周辺すべてダート、なんてことだって少なくない。
だったらオフロードバイクで行けばいい、って思うけれど、ことはそう簡単じゃない。だいたいの都市生活者にとってのダートって、かなり遠くにあるから、ダートの入り口までにひとツーリングを要することになる。
オフロードバイクってカテゴリーはだいたいローギアードで、たとえば100km/hな高速道路のクルージングを快適に、というのがなかなか難しい。
ホンダCRF250Lの登場は、そんな風潮を変えてみせた。
オフロードへ行くためにはオンロードを走る必要がある
「日常を便利に、週末を楽しむちょうどいい相棒」を開発キーワードに、CRF250Lが登場したのは2012年5月のことだった。
日本のオフロードモデルと言えば、2ストロークはヤマハDT、4ストロークはホンダXLシリーズが歴史をけん引してきたと言っていい。
ヤマハDTシリーズは、1990年代以降の全世界的な4ストロークエンジン化を受けて生産を終了してしまったけれど、ホンダXLシリーズはXLXからXLR、そしてXRとシリーズ名を変えながら、日本のオフロードシーンの真ん中にい続けた。
しかし2010年を前に、排気ガス規制のためにXRの生産は終了。日本のオフロードモデルが、ちょっと元気をなくしてしまっていたタイミングで登場したのがCRFだったのだ。
CRFは、それまでのXRシリーズよりも、うんとオフロードモデルへの敷居を低くして登場したイメージだった。エンジンは、CBR250Rと単気筒DOHCエンジンを共用。XRシリーズのモデル末期よりも、乗り手を選ばず、もっと気軽にオフロードを目指す、いや、目指さなくとも街乗りだって快適、という立ち位置。
XRシリーズを含めてオフロードモデルというと、どこか「好き者たちだけのため」のオフロード専用モデルと思われがちだけれど、そんなハードルを取っ払ったモデルだった。
とはいえ、ヤマハがDTシリーズの後にオフロードブランドとして育ててきたセローシリーズよりももう少しオフロード向け。もちろん、セローはオフロードモデルではなく、トレッキングバイク、というカテゴリーを創出したけれど、印象として、セローのオンロードとオフロードの比率を9対1とするならば、CRFは7対3――そんなイメージだったかもしれない。
オフロードモデルというと、林道をばんばん走りたい派、時にはエンデューロにも出場する派、そしてオンロードを含めてのロングツーリングに使いたい派に分かれるように思う。その中で、CRFはロングツーリングから林道にちょいと顔を出す、といったエリアのライダーたちに歓迎される。
フルサイズのボディに、オンロードモデルと共用する6速ミッションの250ccエンジン、それにオンロードモデルが持ち得ないフロント250mm/リア240mmのホイールトラベルを持つ長い脚。オフロードへ向かうにはオンロードを走る必要があるのだ。