50ccからスタートして普通二輪、そしてビッグバイクへの階段を上る……というのは一般的なオートバイ好きの流れだろう。そしてオートバイ歴が30年を数える頃にひとは「上がりのオートバイ」を考え始める。Zなのか、カタナなのか、CBなのか。いや、そこでオートバイ乗りはシングルやツインに帰るのかもしれない。
文/中村浩史/撮影:松川 忍/車両協力:ブルドッカータゴス

そのハーレー知らず男がチューニングスポーツスターに乗る

前ページに書いたように、ハーレーはちょっとイイや、でもスポーツスターなら、という私がスポーツスターと対峙している。

試乗車は、カワサキ・ニンジャやZZ-Rのカスタム&チューナーとしてもおなじみのブルドッカータゴスが製作したもので、代表の田子さんが10年以上をかけてコツコツと作り上げてきた個人車。

実は田子さんも、ハーレーはいいやぁ、って人だったんだけれど、ある時に友人のスポーツスターに乗せてもらってから目ウロコとなり、実際に883Rを自分で買って、不満なところをコツコツと修正してきたのだという。

「中村さん、ハーレー好きじゃないでしょ? でもコレ乗ってみて」ってニヤニヤしてる田子さん。この時点でもう、このスポーツスターが普通じゃないことは薄々わかってきた。

セルボタンでガシュガシュッと、いかにも高い圧縮、重いクランクをセルモーターが苦しげに回している音がする。もっと、国産車みたいにシュルルン、って始動しないものかな。

ミッションもガツンと入る。これも、国産車みたいにこつん、と入ればいいのに、とか何とか思いながらクラッチミートすると、もう出足から違う。ズドドドド、ってトルクが湧き出てユラユラユラッと走り出すものだと思っていたら、もう少し回転のカドは柔らかく、ルルルッとリアタイヤから蹴っ飛ばされるような出撃。

画像1: そのハーレー知らず男がチューニングスポーツスターに乗る

キャブはΦ41mmのFCR、排気量1250ccの空冷Vツインって、こんなにスムーズで力強いっけ! 車体の挙動だって、ユラッとかユサッってクッション性がなく、ピシッと直進する、サスペンションもフレームも剛性が高い動き。

ミッションはノーマルの5速から、アメリカ・ベイカードライブトレイン社の6速が組んである。1~5速のレシオはノーマルのままらしいけれど、トルクがあるからミッションのつながりがいい。

まるでクロスミッションを組んでいるように、ロスなくスピードが乗っていくのだ。ドドドド、ガチャン、ドドドドド、ガチャン、っていうハーレーらしさがまるでない。ただ、これがハーレー経験のない私なんかにはイイのだ。「ハーレーに乗ってるぞ」って感覚がないまま走りだせる。

画像2: そのハーレー知らず男がチューニングスポーツスターに乗る

サスペンションは前後ともハイパープロ。1Gの沈み込みも浅く、ストロークがあるから、きちんと前後のピッチングする車体だ。

感心したのは、ブレーキング時の挙動で、ただサスペンションを固めているだけじゃなくて、きちんとバネレートが高すぎず、伸び縮みの減衰が効いているから、動きもキビキビするし、サスペンションのおかげでブレーキの効きもいい。そういう風にコントロールできる、普通に乗れるスポーツスターだ。

とはいえ、元はOHVヘッドの空冷Vツイン。人間の感覚を置いてけぼりにしない力感がちょうどいい。これが水冷4気筒DOHC16バルブで1250cc、キャブはΦ41mmのFCR、なんて言われると、ちょっと尻込みしちゃう。

コントロール性がいいのは、エンジンも車体もレスポンスがいいからだ。エンジンは右手でスロットルをチョイ開けしても敏感に反応するし、トルクの出方もいきなりドンというより、シワッと燃え始める。これはキャブレターのセッティングをていねいに取っているからだろう。

車体の動きも、荷重を掛けない低スピード域でもサスペンションがよく動くから。ここも、高性能サスペンションを組むだけでなく、きちんとセッティングを繰り返しているからだ。

画像3: そのハーレー知らず男がチューニングスポーツスターに乗る

ギアを6速に放り込んで、80km/hで3000回転あたり。実に平和で、きれいにエンジンが回るけれど、このスポーツスターはもっとガンガン回して走りたい――そう思わせてくれるエンジン、足回りに仕上がっていた。

試乗を終えてショップに戻ったら田子さんが笑っている。「峠、行きたくなるでしょ?」ヤバいぞ、ハーレーもスポーツスターも、これまでは興味なかった、って言えなくなっちゃう。

ずっとバイク乗りでいたいなら空冷シングルもツインもある

「初めて触ったエンジンは、1980年代後半のカワサキZXR750スーパーバイクですよ。それが今はスポーツスターやってて、でも昔の経験がちゃんと役立ってるんですよね」

ブルドッカータゴスといえば、カワサキZや900ニンジャ、ZZ-Rを得意とするショップ……と思われてきた。それが、なんとスポーツスター用の店舗を出したこともあった。

「スポーツスター専門店を出したのは、友人のスポーツスターに乗せてもらって、こりゃ面白れぇ、っていっぺんに好きになって、ヨシ自分でもイジっていこう、って思った2004年ごろじゃないかな。今は新しい店舗にして統合しましたけど、今でもニンジャ系のお客さんにまじって。スポーツスターのお客さんもいるんですよ」

ハーレーを扱うわけじゃない、あくまでもスポーツスターをイジりたい。それは、田子さんがスポーツスターの走りの気持ちよさ、スポーツ性の高さに気づいたからだ。もちろん、今でもスーパーバイク系は大好きで、ZもニンジャもZZ-Rもイジる。

「もともと僕もスポーツスターは興味外だったんです。それが、初めて乗った時に面白さ、伸びしろ、可能性を感じちゃった。年齢もスキルもあるんでしょうね、なにもメカを触れない若い頃に乗っても。この楽しさや可能性は分からなかったと思います」

画像: ずっとバイク乗りでいたいなら空冷シングルもツインもある

今の年齢で感じているスポーツスターの面白さには、空冷Vツインというキーワードがあるのだという。もちろん、性能や熱的安定性、それに現代では大事なエミッション面でも、水冷の優位性は明らか。レースなどで、性能を競うなら、慣れ親しんだ水冷4気筒エンジンがいいに決まっている。

「空冷はまずシンプルなこと。僕に限らず、バイク乗りは『調整』を無意識に感じるものですから、まずはキャブのセッティングが合いやすいのが大きなメリットです。仲間とどこかへ出かけて、誰かしらトラブるでしょ?(笑)その時空冷の単気筒やツインなら、手持ちの工具で何とかなるもの」

パワー感もイイ。前のページに書いたけれど、空冷エンジンのハイパワー化には限りがあって、その枠内にあるエンジンなら、人間の感覚を追い越していかないのだ。ノーマルが物足りないと感じるならチューニングする――そういうシンプルな方程式が、空冷エンジンには生きている。

「僕のスポーツスターは、2002年型の883R。この時代のモデルは、エンジンがフレームにリジッドマウントされていて、2004年以降のラバーマウント車よりもコンパクトでホイールベースも短いし、20kgくらい軽いんです。スポーツバイクにする適性はリジッドマウント車の方が高いと思います」

自分のスポーツスターを作り込んで、ニンジャ系のお客さんに乗せてみせて「ナニこのスポーツスター!」って驚かれるのが楽しみだという田子さん。

画像: ▲ブルドッカータゴス代表・田子敏幸さん。カワサキスーパーバイク系のレーシングメカニックから、今ではニンジャもスポーツスターも、トライアルも好き。漫画家・東本昌平氏が頼りにするショップでもある。

▲ブルドッカータゴス代表・田子敏幸さん。カワサキスーパーバイク系のレーシングメカニックから、今ではニンジャもスポーツスターも、トライアルも好き。漫画家・東本昌平氏が頼りにするショップでもある。

軽いじゃない、速いじゃない、って驚かれながら一緒にツーリングに出かけて、峠でちょっとトバし始めた国産スーパースポーツにしっかりついていくこともできるのだという。いや、それスポーツスターじゃなくて田子さんが上手いからなんじゃないの?

「そんなことない、スポーツスターは誰だって気持ちよく走れますよ。まずノーマルを買って、そうだな3000kmくらい乗り込んでいくと乗り方がわかるはず。そこから少しずつチューニングしていけばいいんです。僕のだって、まだまだ完成してないし!」

若いうちにはアルミフレームだヒザすりだ200PSだって騒いでいたライダーも、年齢を重ねて徐々に落ち着いてきて、それでもバイクには乗り続けたい、と思うもの。そこに200PSのスーパーバイクは荷が重過ぎる。

「僕も単気筒にはまだ到達していないし、ニンジャにだってまだ乗り続けるけど、スポーツスターだったら長続きするかな、って思います。もうすこしおじいちゃんになっても乗れるかもね。そこには、空冷でVツイン、ってことも関係あるのかな」

かつて、人生の上がりバイクはハーレーだ、いやBMWだ、って言われていた時期があった。今ではニンジャやカタナ、ZやCBがそう語られることもあるけれど、ライダーはやっぱり空冷エンジン車、単気筒やツインに帰るものなのかもしれない。

「Zやニンジャが好きな人、じゃあスポーツスターにも乗ってみたら? って言いますよ。きっと、ずっとバイク乗りでいられるかもしれないからね」

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