文/中村浩史/撮影:松川 忍/車両協力:ブルドッカータゴス
メーカーの枠を超えてブランドとして成立すること
ハーレーダビッドソンが無条件に好きだ――って人は数多い。ハーレーというブランドの記号性、国産のオートバイと一線を画した作り込み、あの乗り味、あのたたずまい。
「バイク、なに乗ってるの?」って聞かれて『ハーレーだよ』って答える人、多いものね。あれはメルセデスやポルシェみたいに、ブランドとして特別性があるから成立する会話であって、CBR1000RR-Rに乗っている人は、同じ問いに『ホンダだよ』って答えないし、ヴィッツに乗っている人は『トヨタだよ』とは答えない。
そして、ハーレーが好きだっていう人と同じくらいに、ハーレーはどうもな……って人も少なくない。もっとスポーツバイクに乗りたいじゃない? デケデンデケデンって振動がね、もう少し進化しないかなぁ、そして、あんなカッコして乗るんでしょ? とか。
実は、筆者も後者のひとりだ。数か月前にハーレーダビッドソン熊本にお邪魔して、実に久しぶりにハーレー、ソフテイルスリムに乗ったんだけれど、もう完全にモノを知らない浦島太郎。へぇ、こうなってるのかぁ。排気量は1340ccなんだな?(正解は1746cc)おぉ、思ったより走るじゃないか! なんてお客様的な感想ばかり。
おそらくこの10年でハーレーに乗ったのは4~5度目、走った距離は生涯でも300kmくらい。嫌いじゃない、苦手じゃないけど詳しくない――そんな立ち位置なのだ。
そして「ハーレーダビッドソン」がひとつのブランドとして確立しているのと同時に「スポーツスター」も完全に独立した記号のひとつだ。「ハーレーはちょっと苦手でね……、でもスポーツスターなら乗りたい!」それ、論理が破綻しています。どっちもハーレーなのにね(笑)。
スポーツスターは、ハーレーという枠を離れて、ひとつのブランドとして成り立っている。このポジションを「ドゥカティ」と「スクランブラー」が目指しているのも有名な話だ。「ドゥカティはちょっとね……、でもスクランブラーは好き」なんて位置を狙っている。
これ、なかなか国産メーカーでは例を見ないポジショニングだ。強いて言えば、スーパーカブやSR、CBやカタナ、Zといったところかな。
ただ、私みたいに、バイクブームやレプリカ最盛期を経験、ハーレー道に入り損ねてずっと国産スポーツに乗ってきたライダーって、たくさんいる。
空冷スポーツスターに幕
全面刷新で現行型人気爆上がり!
ひと口にざっくり「スポーツスター」といっても、そこは50年以上の長い歴史を持つモデルだけに、年式ごとに膨大なバリエーションがある。
スタートは1957年、つまり昭和32年(!)で、大陸を旅するハーレーダビッドソンが、レース出場をも見据えて製作したスポーツバイク。
それが日本に紹介されてメジャーブランドとなったのは、1980年代中盤に登場したエボリューションエンジン搭載モデル前後くらいからで、基本はこの世代のスポーツスターが現在まで販売されていると考えていい。
排気量は883ccと1200ccの2本立て、さらにバリエーションモデルも製作され、いつもずっと人気モデルであり続けてきたモデルなのだ。
そのスポーツスターに大きな転機が訪れたのが、この2021年。相次ぐ排気ガス規制、騒音規制をクリアするためもあり、ハーレーはスポーツスターの全面刷新を決意。それが前ページに掲載したスポーツスターSだ。
この65年ぶりの大刷新に、既存の空冷スポーツスターの人気も高騰し、今では新車はおろか中古車さえ入手しづらい状況に陥っているのだ。
新世代スポーツスターは1250ccの水冷Vツイン!
2021年春に発表された、新世代のスポーツスターS。1957年誕生から、少しずつ熟成を重ねてきたスポーツスターが、まさに根本から生まれ変わったブランニューモデルだ。
エンジンは可変バルブタイミングを採用した水冷DOHC4バルブVツインで、3つのライディングモードを選べ、エンジンブレーキ、コーナリングABS、トラクションコントロールなど電子制御も標準装備。日本導入も徐々にスタートしている。
価格はFORTY‐EIGHTよりも約30万円弱の値上げに抑えて185万8000円~。