文:小松信夫
シンプルで軽くて安い空冷2ストローク車! しかし、もはや風前の灯?
国内メーカーの公道を走れる2スト搭載車がラインナップから消えたのは、いつのことだったでしょうか。NSRとかTZRが21世紀まで生き残れなかったのは覚えてますけど、最後の2ストはもはや忘却の彼方です。多分50ccのスクーターだったんでしょうが。あの頃、「もう2ストの新車には乗れないのか」な~んて、ちょっと感傷にひたったもんです。
ところがですね、2021年の今、案外2ストは元気なんです。最新のインジェクション仕様・水冷2ストを積んだKTMのエンデューロマシン・250EXC TPIを、日本でもナンバー付きで乗れます。150EXC TPIもあるし、KTM傘下になったハスクバーナ版もある。
コンペモデルだけど、ヤマハのYZ125は2022年モデルで17年ぶりにフルモデルチェンジ、何とエンジンも新設計(キャブ仕様ですが)! この調子でいけば、案外、近い将来に公道向けの2ストスポーツが復活したりするんじゃ? なんてのは今回の本筋ではありません。
そんな新世代2ストの影で、二輪もカーボンニュートラルを目指そうかという昨今、どう考えても排出ガス的にアウト、「ユーロ5上等!」な旧世代の空冷2ストエンジンを積んだモデルが、まだ、21世紀になって20年を過ぎた今、海外では売ってたりする、という話です。
その代表例がこのヤマハのDT125。「ああ、昔、日本でも売ってた水冷のヤツでしょ?」と思うなかれ、ラジエターは影も形もない。エンジンにもあの深く刻まれた冷却フィンが。スタイルは水冷DT125っていうか、これも水冷だけどDT50に近い雰囲気。80年代的な懐かしさ満点。
こちらは、排気量を拡大したDT175。前後ドラムブレーキで、リアサスはモノサスという、全体に80年代初期のオフ車風の車体とか、基本的な構成は空冷DT125に準じております。
これはヤマハの「農業バイク」AGシリーズのAG100。無骨な前後キャリア、座布団みたいなシート、フルカバードチェーン、オフ車っぽい足回りなどなど、兄貴分のAG200によく似てます。が、エンジンは200の空冷4ストとは違って空冷2ストなのでございますよ。排気量からして、オフ車ベースじゃなくてビジネスバイク系のエンジンのようです。
そしてスズキにも、新世紀を生きる空冷2ストモデルがありました。これはAG100とモロにぶつかる農業バイクのライバル、TF125。基本的な装備とか、見れば見るほどAGとそっくり。収斂進化ってことにしておきましょう。
今を生きる空冷2ストはオフ車とか農業バイクばっかりかと思えば、70年代からそのまま作り続けてるようなスズキのビジネスバイク、AX100なんてのも。需要があるところにはあるんだなぁ。
でも「そのまま」というなら、もっと凄いのがコレ、TS185ER。空冷2ストエンジンはもちろん、2本サス、タンクやシートの形状、特徴的なヘッドライト周りのデザインまで、1980年代初頭のスズキ製2ストオフロード車、ハスラーシリーズのスタイルが、そっくりそのまま保存されてます。国内にも少数ながら並行輸入されてるようで、一度街中で遭遇してビックリしたことが!
まあよく考えれば分かりますが、これらの空冷2ストモデル、基本的にはインフラやサービス網が整っていないアフリカとか中南米とかの新興国向けのモデルって位置付けでした。空冷2ストは安くて軽くてパワフルで、構造が超シンプルで壊れにくくて、メンテナンスも楽。オフロード的なモデルが多いのも道路事情や農業などの用途が反映されてのこと。
しかし、そんなメリットも世界的な環境問題への関心の高まりには勝てず、空冷2ストも終焉を迎えつつあるようです。2022年モデルの存在がはっきりと確認できたのはAX100だけ(メキシコで絶賛販売中)。
他のモデルは、もはや現地インポーターのホームページから姿を消しつつあり、かろうじてヤマハ、スズキのグローバル向けホームページで紹介されているだけ、まさに風前の灯なのです。冷却フィンが共振する、あの空冷2スト独特の音、好きなんですけどねぇ。
文:小松信夫