以下レポート:三橋 淳
ダカールラリー・ライダーの体の慣らし方
朝が来た。今日も快晴である。カーテンを開けると眼下に下呂の町が広がっていた。なかなかいい眺めだ。
東京をスタートして5日目。ようやっと体が慣れてきたようで、朝起きるのが辛くなくなった。疲れも引きずらなくなってきた。
ラリーの世界ではよくある話だ。「3日目までは体慣らしだから、無理して飛ばさないでリズムを作るように走りなさい」と、アドバイスするライダーは多い。
でもね、これはアマチュアライダーのリズムの作り方。プロは違う。こう見えても4輪でお金いただいてダカールラリーを走っていたのだけれど、その前はアマチュアライダーとして3年パリダカに参加した。で、アマチュア時代は確かに3日目までリズムを作るのが大変だった。でもプロになると違う。初日から全力。「最初は様子見」なんてしない。そんなことしていたら取り残されちゃうからね。
しかし、それは1年間ダカールラリーのためにリズムを作って、トレーニングしてきたからできる話。前哨戦として他のラリー出たり、またアフリカの大地、モロッコで1カ月近い車両テストやったりしているから、初日から全力でいけるんです。
そんなわけで、ラリーから遠ざかり、何日間も続けて走るツーリングも久々だったので、体が鈍っていた。ようやくリズムをつかめるようになりましたよ。
大谷大栃林道、いけるのか、いけないのか
朝早く出発できたので、下呂温泉といえばの河原の露天風呂によってみた。
はたから丸見えの露天風呂。その昔、ツーリングライダーの賀曽利隆さんと一緒に素っ裸で入ったなぁ。今じゃ無理よ(編集部注:2021年12月からは足湯専用になっています)。アルパインスターズのブーツ履いちゃってるから、脱ぐのが面倒でとりあえず見物だけ。思わず懐かしくなってきた。
さて、進路を西にとって郡上八幡のほうに向かう。そこから伸びる大谷大栃林道を目指すのだ。郡上八幡は一度ゆっくりしてみたいと思っていたのだが、今回もかすめるだけとなる。
大谷大栃林道は楽しみで仕方がない。何しろ20kmを超えるロングダートだ。崖崩れなどで通行止めになることも多いらしく、通れればラッキーな道。まるで林道お宝ハンター、今日も走れるのか走れないのかは運まかせだ。
途中、ガソリンスタンドに寄りしっかり満タンにする。CRF1100Lアフリカツインの給油は1日に1回もしくは2回。1日あたり200~300kmは走っているので、航続可能距離に不満はない。
高速道路で一気に距離を稼ぐようなツーリングなら「アフリカツイン・アドベンチャースポーツ」の方がいいのだけれど、基本シタミチで林道ハンターなツーリングなので、十分。タンクが重たくなると走りづらいしね。
大谷大栃林道への入り口に着いた。
いきなりデカデカと工事中&通行止めの標識が!
ここまで来てこのご馳走を食べられないのか!? がっくりうなだれていると、小学1年生くらいの男の子と母親と思われる女性が横を通っていく。男の子がアフリカツインを興味津々に見ているので、ピースサインを送ると、喜んで手を振ってくれた。
一応ダメ元で聞いてみよう。
「あのすみません。この先抜けられないのでしょうか?」
「あ、そういうのおじいさんに聞いてください。すぐそこにいますので」
お、おじいさん!?
「私のおじいさん(お父さん)が工事やってるんですよ。詳しいですよ。ほら、あそこ」
そう指差した先には、林道手前にある民家の前で集まっているご年配の方々がいた。あらためて尋ねる。
「この先抜けられないんでしょうか?」
「ああ、抜けられないよ。ダム工事だからね。ありゃいつ終わるかわからないくらいの大工事だよ」
えええ、まじっすか……。
「あ、待てよ、もしかして大谷のほうに抜けたいのか? だったら行けるよ。そっちの方は日曜日は工事やってないし。週末なら抜けられるな」
今日はまさに日曜日。なんて運がいいんだ!
「でもなぁ。こっち側は通れるけれど、向こう側の状況はどうなってるかわからないよ」
同じ道でも管轄が変われば道路の状況は変わる。大谷大栃林道も名前からして大谷と大栃という地域名が入っていることを考えると、ふたつの自治体にまたがっているとみるのが正しい。
つまりこちら側、大栃側は開放しているけれど、大谷側は知らないよ、と教えてくれているわけだ。
ひとまず入り口は通れることはわかったので、林道を突き進む。さっきの親子連れにありがとうとお礼して、山へと入った。
すると、いきなり分岐が現れた。あ、林道入り口の完全通行止めって、こっちにことなのか。
メイン林道は左に曲がっている。なんだー。心配して損した。全然平気じゃないか。このまっすぐ伸びる道は北のほうに上がっていく林道。大谷大栃林道は東西に走る林道。これなら影響はない。
ところが、走り始めるとまた工事中の看板が。そして道が突然きれいになった。
平日工事しているっていうのはここなんだな。舗装化するのだろうか? どっちにしろ工事が休みの日曜日に訪れたことはラッキーだった。
この林道、非常にフラット。真っ平だ。これこれ! アフリカツインで走って楽しいはこういう道なんだよ。
巷ではハードエンデューロが流行っているみたいだし、その楽しさも一応知っている。若い頃は、今のレベルほどじゃないけれどハード系の山遊びはさんざんしてきたからね。
けれど、アドベンチャーバイクでのツーリングの楽しさもいまは知っている。フラットな林道、たのしー!