月刊『オートバイ』で書評コーナーを長年に渡り担当している小松信夫がライダーにおすすめの一冊を紹介します。

元F3レーサーの高校生(!)が主人公

画像: 秋田書店・ヤングチャンピオンコミックス『公道ウルフ』1巻 野口 賢

秋田書店・ヤングチャンピオンコミックス『公道ウルフ』1巻 野口 賢

秋田書店・ヤングチャンピオンで現在も連載中の、野口 賢さんの『公道ウルフ』です。第1巻の表紙にはトヨタMR-Sがドーン! バイクの話じゃないの? と思われるでしょう。確かに、この漫画のメインのストーリーは主人公である高校生・颯ユウヤ(イギリスで4輪のF3レースを走ってたが、ライセンスを剥奪され帰国、今は高校に通ってるという設定)が、MR-Sで公道バトルをするという、まあかなりぶっ飛んだ話…コレも面白いんだけど。

画像: 元F3レーサーの高校生(!)が主人公

それと並行して、ユウヤがバイトとして漫画誌専属の原稿輸送専門のバイク便をしてるのがミソ。東京・練馬の環八の外側から都心の編集部までを20分で運ぶ!というバカっ速。乗ってるバイクがヤマハのTZR250で、しかも89年に登場した形式3MA、いわゆる「後方排気」ってヤツ。

画像: ヤマハTZR250(1990年型)

ヤマハTZR250(1990年型)

いや、倒立フォークになってるから90年型か。でもこれ、90年代が舞台じゃなく2020年代の現代の話なんだよね! でも、このバイク便自体は、実はあまり4輪のバトルの方の本筋にはあんまり関係ない。

なのに、2輪で走るシーンの描写が4輪のバトルシーンと変わらないというか、それ以上のもの凄い熱量で描かれてる。「ああ、バイク大好きな人が描いてるな」というのがヒシヒシと伝わってきます。確信犯です。だいたい、TZRを出すのにわざわざ後方排気を選ぶっていう時点で好き者だよね。2巻終盤では、たまたま遭遇したフルチューン油冷カタナとのバトルもチラっと描かれ、どうも再戦が行われるような展開(原稿輸送バトル?)。もう描かれてるだろうけど、私、単行本派なんで楽しみに待ってます。

画像: 秋田書店・ヤングチャンピオンコミックス『公道ウルフ』3巻 野口 賢

秋田書店・ヤングチャンピオンコミックス『公道ウルフ』3巻 野口 賢

…と、オートバイ本誌誌上の連載コラム版で書いた直後に、第3巻が出てですね…タイミング悪かったなぁ。3巻でやっとTZRが表紙に登場しましたよ。そして、やっぱりカタナとの原稿輸送バトル(カタナに乗ってたのが、ユウヤが運ぶ原稿を描いてる作家のライバル漫画家本人で、先に着いた方が掲載されるという勝負!)が行われたけど、「勝負に勝って試合に負ける」あのオチは…バイク便バイトの存在意義を問う? ような気もするけど、ま、いっか。

あ、あとTZRが走り回ってる道が都心の実在の道で、背景とかも実際の風景をちゃんと描いててですね。結構ウチのご近所、よく知ってる道も走ってるので妙な親しみを感じてます。あんな所でTZRがフルバンクしてるの見たら腰抜かすって。

さらにその後、単行本は第5巻まで出てますが、4・5巻ではちゃんと(?)4輪の話になってて。ほとんど2輪出てこなくなっちゃってるのが、ちょっと寂しかったりします。

文:小松信夫

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