文:小松信夫
ついに時代が追いついてきた…訳ではない?
ヤマハSR400が2021年のファイナルエディションを最後に生産を終了。40年を超える長い歴史に終止符を打って大きな話題になりましたが、マイナーな輸出モデルで重箱の隅を突いてみると、まだまだ意外な長寿モデルがいるんですよ。そんな中でも、SRには及ばないものの30年以上販売されているという隠れたロングセラーが、スズキのミドルクルーザーであるブルバードS40なのでございます。
スズキのクルーザーといえばかつてはイントルーダーシリーズでしたねぇ。基本的にはVツインエンジン搭載(いっぱい例外あり)で、重厚でクラシカルなスタイルが特徴。1980年代から国内向けや輸出向けに、大は1800ccから小は125ccまで、様々なモデルをラインナップしてました。
しかしスズキは2000年代に入り、クルーザーのブランドを北米、オーストラリア向けのブルバードに統一。国内向けにも売ってましたよね、ブルバード400。今ではインドで生産されてるイントルーダー150といった一部の例外を除けば、スズキのクルーザーはほぼブルバードになっちゃって。今やスズキの古典的クルーザーを販売してるのは、北米とオセアニアだけなんだけど。
なんとか生き残っているブルバードシリーズ、そのラインナップの中の1台が、このブルバードS40というわけですが。このモデルは前述のイントルーダーの系統じゃなくて、1986年に登場した異色のクルーザー、サベージの末裔なんですね。要するに傍系ってことなんだけど。
サベージの特徴は、一般的なクルーザーに多く採用されているVツインエンジンではなく、大排気量の単気筒エンジンを採用したこと。400cc以上のクルーザーとしては唯一でしょう。その巨大な直立シリンダーを活かしたスリムなチョッパースタイルが印象的!
しかし、国内ではそれほど注目されることはなく、数年でフェードアウト(一度だけ再発されたけど)…だからシリーズといえるほどのバリエーション展開はなく、フラットハンドル仕様とアップハンドル仕様があるのと、国内専用の400ccバージョンが存在する程度。
あ、そういえば、400cc版と同型エンジンを使用したSRの対抗馬、クラシカルなロードスポーツのテンプター400ってのもありましたっけねぇ、1997年デビューでしたか。細部まで凝った造りだったけど、残念ながらこれもパッとしなかったなぁ。
そんな国内では不遇だったサベージの一族ですが、海外ではなぜだか根強く支持され、車名こそブルバードに変わったものの、現代までなんとか生き残ってきたという訳で。重厚、豪華というんじゃなく、スリムで軽快なイメージのモデルという位置付けのモデルとして。現在販売されてるモデルでは、エンジンや足回りをブラックアウトすることで、今時なボバーっぽい雰囲気に仕上げたりね。うーん、やっと時代がサベージに追いついてきたのか? いや、違うか。
何がサベージ650〜ブルバードS40を30数年に渡り生き残らせてきたのか? といえば、やはりこの単気筒エンジンってことなんだろうなぁ。空冷でボア94×ストローク94mmの排気量652cc(652cc=40立方インチ、というのが車名の「40」の意味)。独特な造形が視覚的に強烈な存在感を放ってる。
このエンジン、見た目は古典的だけど、中身はシングルカム4バルブで、振動を抑える一軸バランサーも備え、チェーンじゃなくてベルトドライブを採用するなど、結構凝ったメカニズムでね。乗ったことないけど、Vツインのクルーザーとは一味違う、ビッグシングルらしい鼓動感や力強さ、サウンドが味わえる、ってことなんでしょう。
そして個性的な全体のスタイリングも高く評価されてるようで。今も売ってるブルバードS40も、各部の仕上げやカラーリングで巧みにイメージチェンジはしてるけど、よくよく比較してみると基本的に初期型サベージのデザインから驚くほど変化していないのが分かるから。コンパクトでスタイリッシュなヘッドライトや、スリムでシンプルな形状の燃料タンクなどなど、基本的なディテールはそのまんま。
このブルバードS40は、SRを上回るロングセラーになれるのか? そもそも販売されてるのはアメリカ、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランドくらいとかなり限られてる。最後にアップデート(といっても色変わりだけ)されたのは2020年モデルで、以降は継続販売されてるだけ、2022年モデルが出る気配もなし。アメリカじゃ2019年モデルを売ってるくらいだから、そんなに大きなテコ入れがされることもなさそう。
そして最大の問題は、このでっかい単気筒エンジンが、いまだにキャブ仕様だってこと。そんなんで今後、さらに厳しさを増していくだろう排ガス規制をクリアできるのか? これはちょっと難しそうだよねぇ。
文:小松信夫