文:小松信夫
ヨーロッパのYS125、パキスタンのYBR125、似ているようでけっこうちがう
日本でも近年125ccクラスへの注目度が高まって、そりゃあもう大人気。まあ、世界的にはずっと前から根強い人気があったのは、この連載における125cc比率の高さからも分かるでしょう。
とはいえ、国や地域によってスクーターだったり、アンダーボーンモデルだったり、人気となってるカテゴリーがあるもんです。しかし世界の大抵の国で売ってて、特に大人気になるわけじゃないんだけど、深く静かに支持されているのが125ccのスタンダードモデル。
空冷単気筒エンジンで、スチール製のシングルクレードルフレーム、ツインショック、ホイール径は前後18インチという、どこを取ってもオーソドックスで、スポーツ味は薄く、質実というかひたすら頑丈で扱いやすくてお買い得なヤツね。
以前この連載でもその代表的な存在としてホンダのCB125Fを取り上げましたが、今度はヤマハです。現行モデルとしてヨーロッパを中心にあちこちで売られてるYS125っていうのが、ヤマハにおけるこの手の実用125ccの最新モデル。最新とはいえデビューは2017年で、メカニズム的にもさっき触れた以上でも以下でもない造り。タンクとかヘッドライトとか、シート周りなんかのデザインが今時かな、という程度。
ヤマハのこういう125ccモデルというと、以前国内でもYSPモデルという扱いでYBR125ってのを売ってたのを覚えてる人も多いでしょう。いまでも広く売られてる、このYBR125は中国、ブラジル、インドなどなど、あちこちの国で長期間、改良を受けつつ生産、輸出されていたと。ヨーロッパでもYBR125は人気だったそうで、だからYS125は、YBRの外装だけ着せ替えたお手軽なモデルなんだと思ってたんですが。
例えば現在パキスタンで売られてるYBR125がコレなんですけど。「丸目のモデルはともかく、現行モデルはYS125と同じようなもんじゃないか!」と思うなかれ。確かにミニカウルとバイザーの付いたヘッドライトとかになって、雰囲気はYSに近いかもしれない。けど、よく見ればエンジンとか、タンクやシートの形状なんか、日本で売ってたYBRからほとんど変わってませんから。
大体、エンジンそのものがYSとYBRは違うんですわ。そりゃ空冷でシングルカムで2バルブなのは同じですが、外観見ればクランクケースが完全に違うのが分かりますね? スペックで比較しても、ボア×ストロークから違ってて、YBRが54×54mmのスクエアストロークなのに対し、YSは52.4×57.9mmと大分とロングストローク。それにYBRはキャブ仕様だけど、YSはインジェクションで、マフラーにも触媒が付いてて排ガス対策が行き届いてます。まあ、ヨーロッパで売る以上は当然だけど。
YSのヘッドライト周りのデザインも、14Lという大容量のタンクやシュラウドの複雑な形状も、YBRとは似て非なるもの。YBRがYSに合わせてデザインをアップデートした、ということなんでしょ。
ツンと尖ったテール周りのデザインも、カッコいいグラブバーも、ここだけ見れば125ccの実用モデルとは思えないですな。YBRなんか、ごっついメッキパイプだからねぇ。
装備といってもスクーターとは違って特筆すべきものは少ないんだけど、YSはアナログタコメーター&多機能液晶の複合メーターで案外スポーティな雰囲気。アナログのスピードメーターだけ、みたいに極端にチープにすると、ヨーロッパとかではかえって売れないのかもしれない。そのおかげで、手の込んだところが多いからか、YSは値段がそこそこする。だいたい2800ユーロくらいだっていうから、35〜36万円くらい。
ちなみにパキスタンのYBRでは、アナログ表示のタコメーター、スピードメーターの2連タイプでございます。ギアポジション表示まであって、意外に多機能だったりする。生産国や仕向地によって、全然違うんだろうけどねぇ。
メカニズムもスタイリングも、イロイロ現代的に洗練されたYS125に対して、YBR125は長年各地のユーザーの声に応えた結果生まれた豊富なバリエーションが魅力。パキスタン仕様には、アップフェンダー、オフロードタイヤ、ガード付ヘッドライトを装着した〝マルチパーパスバージョン〟のYBR125Gなんてのがあったり。
シュラウド無しで80年代っぽい雰囲気のYB125Z-DXや、そのスタンダードバージョンでドラムブレーキ&ワイヤースポークホイールのYB125Zなんてのまで、豊富にラインナップされております。パキスタンだけでこれなんだから、世界中を探せば、他にもいろいろあるんだろうなぁ。
文:小松信夫